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「毎日学校に行きたい」医療的ケア児の願い

2021年8月29日 9:16
「毎日学校に行きたい」医療的ケア児の願い

たんの吸引や人工呼吸器の管理など、日常的に医療的なケアを必要とする子どもたち。毎日、学校に通いたいという願いの前に、ある課題が立ちはだかっています。

■学校に行ける日は“週に2日”

都内に住む中学1年生の山田萌々華さん。全身の骨がもろく、骨折しやすい難病を抱え、1日のほとんどを横になって過ごしています。

記者「家ではいつも何をしているの?」

萌々華さん「YouTube見たり、TikTok見たり」

萌々華さんは、生まれつき肺が小さく呼吸する力が弱いため、人工呼吸器を使用しています。

萌々華さん「呼吸とかをお手伝いするため。もう全然慣れた」

人工呼吸器を使う萌々華さんのように、日常的に医療的なケアを必要とする子どもは「医療的ケア児」と呼ばれ、全国に約2万人いるといわれています。萌々華さんは、都内の特別支援学校に通っていますが…。

萌々華さん「できればもっと学校に行きたいけど…。できれば毎日行きたいのが希望かな」

登校できるのは週にたった2日、火曜と木曜だけ。そこには、医療的ケア児が直面する課題がありました。

■学校看護師が足りない

心待ちにしていた登校日。萌々華さんは、看護師といっしょに送迎車で学校に向かいます。

萌々華さんの母「いってらっしゃい」

萌々華さんが楽しみにしている数学の授業。学校に通えない日の分まで取り戻そうと、一生懸命取り組みます。

先生「すごいすごい、あってる」

授業の途中で、呼吸をサポートする薬を吸入。このように、学校にいるときも医療的ケアを受ける必要があります。さらに、萌々華さんのそばには、常に看護師が待機することになっています。

看護師「酸素がちゃんと流れているか、量が大丈夫か、残量が大丈夫か、(人工)呼吸器がちゃんと動いているかをチェックしています」

萌々華さんの学校生活を支える「学校看護師」。その人数が足りないために、週2回しか通うことができないのです。学校側もなんとか看護師を増やそうとしていますが…。

都立 光明学園・田村康二朗校長「学校看護師さんのプロとしての業務のニーズがあるということは、まだ知れ渡っていない」

まだまだ認知度が低いといいます。

■医療的ケア児の成長を見守る喜び

こうした中、医療的ケア児が毎日通学できる学校も。神奈川県にある高峰小学校です。特別支援学校ほど設備や人員は整っていませんが、人工呼吸器をつけている半谷大知くん(小学5年生)を受け入れています。

足立原智津子さん「おはようございます」

学校看護師として働く、足立原さん。

足立原さん「たいちゃん、お薬いくよ」

もうひとりの看護師と日替わりで、月曜から金曜まで毎日登校する大知くんの医療的ケアを担っています。

足立原さん「いただきます、って」

実は、この学校でも、大知くんの入学が決まってから、半年ほど学校看護師が見つからない状態が続いていました。そうした中、足立原さんは、医療的ケア児の力になりたいという思いで手を挙げたのです。最初は不安もあったといいますが…。

足立原さん「成長があるというのは、よく見ていれば見える。そういうのがあったときにはすごーいって。うれしくなってしまいます」

大知くんの母・半谷尚子さん「学校看護師の存在は私たちにとってすごく大きくて。大知本人のことをすごくよく理解してくださっています」

足立原さんは、同級生と触れあう中で成長する大知くんを見守ってきました。

記者「大知くんと何をして遊ぶの?」

同級生「本を読んであげたりとか、歌をみんなで歌って」「たいちゃんが見てて、笑ったりしてくれるとうれしかった」

医療的ケア児にとってかけがえのない学びや触れあいを支える「学校看護師」。それでも人手が集まらない背景には、認知度の低さに加え、待遇の問題もあるといいます。

足立原さん「病院看護師のほうがお給料はいいですよね。だから若い人が来づらい。若い人の力も借りたいなってすごく思います」

■国会でも動き 支援法が成立

こうした問題の解決に向けて、国会でも動きが。萌々華さんも見守る中、医療的ケア児と家族を支援する法律が成立したのです。支援法では、医療的ケア児の学びのため、学校看護師不足を解消するよう、国や自治体に促しています。

萌々華さん「人工呼吸器をつけていても毎日学校に通えることが願い」

しかし、具体策は国や自治体にゆだねられているため、どれくらい学校看護師が増えるのかは未知数です。

■初めて言えた“また明日”

特別支援学校の授業で萌々華さんが一番楽しみにしているのが、友達とのスポーツの時間。そんな萌々華さんに、この日、うれしい出来事が。

萌々華さん「明日から週3で、金曜日も通えるようになりました」

萌々華さんの思いを受け、研修を受けた教師が、看護師の代わりに一部の医療的ケアを担うことになり…。登校日が週3日に増えたのです。

萌々華さん「うれしいし楽しみだけど、体調を崩さないように頑張る。(学校の先生に)感謝でいっぱいです」

看護師「明日もよろしくお願いします。今週3日目だから無理せず」

先生「また明日ね」

これまでは言えなかった、“また明日”。「学校に通いたい」という医療的ケア児の願いをどうかなえるか。学校看護師を増やすため、国や自治体の具体的な取り組みが求められています。