【解説】ナゼ急ぐ?自公「神経戦」の行方は?…公明党、9日にも埼玉・愛知で衆院選の追加公認発表へ 自民からは反発も
衆議院の選挙区の定数が「10増10減」となる中、定数の増える地域で新たに候補者の擁立を目指す公明党は9日にも、埼玉と愛知で追加公認を発表する方針。自民党内から反発も出る中、強気の姿勢を貫き“見切り発車”で擁立を急ぐ背景を解説する。
■10増10減めぐり 自公で“神経戦”
「10増10減のうち10減は全部ウチ(自民党)がかぶっているから公明に譲れるのは限度がある」(自民党幹部)連立政権を組む自民党と公明党の間で、衆議院の小選挙区にどちらの候補者を立てるかをめぐり熾烈な神経戦が繰り広げられている。去年、改正公職選挙法が成立し、衆議院の「1票の格差」を是正するために、小選挙区の区割りが変更されたためだ。
公明党は新たに定数が増えた地域のうち、東京・埼玉・千葉・愛知の1都3県の選挙区での候補者擁立を目指している。このうち東京については既に、現職の岡本三成氏を12区から29区へと“国替え”させる形で擁立することを発表した。そして、新たに埼玉14区に石井啓一幹事長、愛知16区に伊藤渉政調会長代理を擁立し、9日にも正式に公認を発表する見通しだ。
従来、連立を組む自民党と公明党は事前に調整し、お互いに了解した上で候補者を擁立し、推薦し合う。ところが、今回の公明党が擁立しようとしている候補者については、自民党はまだ了解をしていないという。
了解どころか、自民党内からは「公明党の候補が選挙区で出てもそんな簡単に勝てる話じゃない」(自民党・閣僚経験者)などと、反発の声があがっている。
一足早く先月、公認を発表した東京29区をめぐっては自民党東京都連の幹部や地元の区議らが「公明党の候補を応援することはできない」と自民党本部に抗議に訪れる事態となった。その結果、公明党の公認候補に自民党として推薦を出すメドは立っていない。
さらに2月25日に行われた自民党の全国幹事長会議でも埼玉での公明党の候補者擁立の動きに対して、批判が出たという。それにも関わらず、なぜ公明党は強気の姿勢で新たな候補者の擁立を急ぐのか? 背景には公明党を取り巻く2つの事情がある。
■事情① 落ち込む組織の集票力
一つ目は、公明党の支持基盤の弱体化だ。
支持母体である創価学会の会員は高齢化が進み集票力の落ち込みが顕著になってきている。去年の参院選での比例代表の得票は、2019年の参院選と比べても35万票以上減らした。
そのため、衆議院小選挙区の候補者を増やすことで中長期のスパンで安定的な議席を確保し、党勢の衰退に歯止めをかけたいという狙いがある。
公明党は現在、衆議院の小選挙区で9議席を獲得しているが、将来的な比例代表での議席減に備え、少しでも小選挙区選出の議員を増やしておきたいという考えだ。
■事情② 次期代表候補に「もっと汗をかいて」
二つ目は、埼玉14区に公認する方針の石井幹事長の知名度アップだ。
現在、公明党代表を務める山口那津男氏は8選され、異例の任期14年目に入っている。石井幹事長は、次期代表と目されているが、公明党内からも山口代表の後任になるためには、「比例代表ではなく小選挙区で勝ち上がり、汗をかいてもらわないといけない」(公明党幹部)との声がある。公明党にとっては、「目立たない」と言われる石井幹事長の知名度を上げるためにも小選挙区からの出馬が必要だという理屈だ。
一方、愛知県は、自動車など製造業が多く集まり労働組合が強固で伝統的には野党が強い地域だ。与党にとっては厳しい戦いも予想されるが、かつて公明党は石田幸四郎元代表らが立候補していた実績もあり、一定の地盤があるという。そうした愛知で、次世代ホープとの呼び声が高い伊藤渉政調会長代理を擁立し売り出したい考えだ。
ある自民党幹部は、公明党との選挙区調整について「統一地方選も終わった後、最終的には5月ぐらいまでずれ込むだろう」との認識を示す。
ただ、公明党は、「新たな選挙区の有権者と接する機会を早く作る必要があり一刻も早く決めたい」として自民党内の調整を待たずに“見切り発車”の形で次々と公認を発表している。
こうした強硬策が小選挙区内の自民党支持者の反発を招き溝を深めることになれば、選挙結果に悪影響を与えることになる。自公両党が民主党から政権を奪還して10年以上がたった。選挙区調整の行方は今後の連立政権のあり方の試金石となるため、目が離せない展開が続く。