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【内幕】「すごいなシンゾー!」トランプ氏に伝えた五輪延期 安倍元首相銃撃1年…側近が語る「長期政権の舞台裏」④

2023年7月8日 16:32
【内幕】「すごいなシンゾー!」トランプ氏に伝えた五輪延期 安倍元首相銃撃1年…側近が語る「長期政権の舞台裏」④
首相官邸インスタグラムより

■トランプ氏と築いた“信頼関係”

長谷川元首相補佐官
外交全般というのは私が語れるものではないですが、やはりリーダーとリーダーの接触の中で、非常に特色的な事をいくつか感じました。

まずアメリカ大統領について言えば、誰が大統領であろうと、信頼関係なり関係を友好に維持することは、日本の総理の仕事であると強く思っていたかと。どうしてかといえば、同盟国だからです。日本は、いくら周りに脅威が増え、脅威というのは武力や兵器で裏付けされた脅威という意味ですけども、日本の場合は、憲法の求めるところの自衛力として、持てる実力はある種の限界を決めているわけです。その脅威が増えた時に、自衛力を強化するというか、補うものとして日米安保条約があるわけです。

日米安保条約というのは、当然日本の防衛のために作用しているので、安保条約の執行責任者たるアメリカ大統領との信頼関係がなければダメだ、それが誰であろうと、ということは強くありました。

オバマ大統領との関係も、大事に育てていきたいし、トランプ大統領との関係もそうだったわけです。

トランプさんについては、かなり特色がある方だということは、前から分かっていて、そして選挙戦に勝って、2016年11月から接触が始まりますが、どのようにこの人と信頼を作ったらいいのか悩んでいたと思います。
これは外務省のご苦労で、比較的早い段階、2016年11月にミーティングができるとアポイントを取って頂いたものですから、ニューヨークのトランプタワーに行った。

まず話したのは安全保障。特にアジアの安全保障については(トランプ氏は)あまり実感を持っていなかった。
今ある現実の脅威である北朝鮮。そして中長期的に、深刻になる可能性が高い中国。
この2つのある種の脅威。中長期的な脅威をどうマネージして日米がどう役割分担をするかということで、トランプさんといい話が出来た。トランプさんの安倍さんに対する、信頼というのは、そこが出発点なわけです。

ただ、トランプさんは、マルチはだめなんですね。基本的に自分のビジネスが、相手と私というバイ(2国間)だというのがあるんです。アメリカの強みは、購買力もあるし、技術力もあるし、相手の国と2国間で腕相撲するから強いんだと。

それから防衛については、「なんでアメリカがよその国のために、こんなに負担をするんだ」と。NATOだってそうですよね。防衛費をGDP比2%を守ってない国ばかりじゃないかと。

その中で日本の防衛について、アメリカが義務を果たすということを、彼が得心しないと腑に落ちないといけないわけです。
そのために色々なやりとりがあり、そのために、返す刀で反論し、しかし、なかなか癇癪持ちの方ですから、怒らせてもいけない。人を説得する時には、相手側の頷きやすい論法でいかないといけないわけです。
そういう意味で、トランプ大統領は、日本はなぜ自分で自分の国を守らないんだと。ロシアや中国をかつて負かしたじゃないかと。すごい国なんだ日本はと。そういう国のために、何でアメリカは負担をしなくてはいけないのかということを折に触れてでてきたと伺っています。

防衛負担については、やはり日本がもっと日本の貿易対米黒字というのをなくすべきだというパッケージに、トランプ大統領はするんですね。

その問題が別だと言って説得しても無理ですから。なので日本がアメリカの基地機能を一部、日本で提供することで防衛負担はしてると。だから日本がアメリカに防衛負担を負ってもらってるだけではないと。

それから国会で大変な激闘を経て、自分の支持率を大きく減らしたけど、日本の自衛隊はアメリカ軍が日本を守ってくれる限りは、アメリカ軍を一緒に共同して防衛するんだという話を、大きく支持率を落としてもしたんだと、そういう政治生命をかけた話をしたら「なるほど」と言って納得してくれたと。

麻生元総理の言葉を借りれば、外交では、守るべき一線は譲らないという胆力と仰っていますが、胆力を表に出さずに、しかし胆力を発揮するという。人間としての信頼関係ができたわけです。おそらくバイデン大統領の時代に、総理をしていれば、それはそれでバイデン大統領を大事にすると。

■トランプ氏に五輪延期を伝えると「シンゾーすごい!」

長谷川元首相補佐官
2020年にコロナが蔓延し始め、オリンピックを1年延期したい、せざるを得ないということを総理は思うわけです。
しかし、アメリカが賛成してくれないと、これはうまくいかないだろうと。諸般の理由で、メディアなども含めてですね。

それが電話会談だったですが、相当総理も緊張して、「ノー」と言われたら困るという感じだったんです。
その話をトランプ大統領に電話でしたら、大統領の反応は「シンゾーすごい!オリンピックをこれまで、奇数の年にやった人はいないんだよ。君が初めてだよ」という反応だったんです。「2021。私は21という数字が好きなんだよ。」と。

総理は「私は誕生日も21日なんです」と話し「すごいなシンゾー!」と、トランプさんがOKしてくれたこともあります。

■インド・モディ首相は「アベ!」絶賛

日本とインドは交互に訪問し合うことになり、インドを訪問しました。
ある時、歓迎の昼食会で、対面したモディ首相と総理。しかし、テーブルの距離があって、お互いの声が聞こえないようなんです。

ですから、モディさんは隣にいる私に、話をしてもいいよということになりました。私は質問しました。
「モディ首相は色々と世界のリーダーとまみえる機会が多い思いますが、どのリーダーが一番好きですか」と。そしたら、「シンゾーに決まってるじゃないか」と。「アベだよ、アベ」って。

トランプ大統領は「シンゾー」というんですが、モディ首相は「アベ」と言うんです。なぜかと聞いたら、「He inspired me」と言うんですね。「inspire」という言葉を使ったんです。

なぜそう思うのかとも聞くと、「安倍総理は、ある事をするというビジョンを出し、それを実行して、実現するんだ」と。
「これは自分に強くinspiringだ」と言ってました。

■対中外交…徐々に縮めた習近平国家主席との距離

中国との関係も大変苦労したわけです。
向こうの言い分は、日本側としては、とても飲める話じゃありません。ある種の威嚇をしてくるわけです。

2013年に政権発足し、数週間した時に、尖閣周辺だと思いますが、東シナ海で日本の自衛隊の艦船が、中国の艦船からいわゆるミサイル(火器管制レーダー)照射を受けるわけです。

軍の世界の常識では、照射を受けるとミサイルが飛んでくることは、しばしば起こるわけです。自衛官のみなさんが規律高い辛抱で、撃たれるかもしれないのけども、当然ですが反撃をしなかった。そういうことがありました。
これはすぐ首脳会談をし、万が一の時は、すぐトップが交信できるようにしようと思ったんですが…

習近平国家主席との最初の接触は、それから、1年10か月たった2014年10月です。習近平氏は、そっぽを向き嫌な顔をし、中国側は会談と言ってないと思うんですけど、背後に日中の国旗もない。

それが回を重ねることにより、段々と距離が近づいてきて、最後の1年ぐらいは、食事でもてなしてくれる関係になったわけです。
その時に、習近平主席がおっしゃるのですが、すごく印象に残ったのは、確か2017年。ベトナムAPECの折りに行った二国間の首脳会談。中国人の日本に対する見方、感覚はすごく改善してるんだと。それは多くの中国人が日本を訪れ、日本人と接し、実の姿の日本、日本人を理解したという。

いわば観光振興。そういう外交関係の友好、もちろん地方振興だけども、日本がそういった複数の目的を、同時に達するような政策展開もあり、それを習主席の言葉で、トップから言ってくるという関係にまでなったんです。

ですから、日中の関係も、当然一筋縄ではいかないわけですけれど、何とかうまくお互い、やってはいけないこと、言ってはいけないこと、それから、お互いがしなくてはいけないこと、これを、何とかうまく組み合わせて欲しいなと思います。

総理は、私よりはもう少しタカ派だとは思いますが、首脳会談時は必ず尖閣についての日本のポジションを発言し、向こうも、最初は反応したんですが、李克強首相も含め、総理が発言すると、とにかく聞くと。そういう感じになって、安倍総理としての最後の首脳会談が終わると。

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