もし地震や津波が…訓練はバーチャル体験で
小学校の防災訓練として注目される「防災XR(クロスリアリティー)」。最新技術で現実と仮想の世界を体験すると、何が分かるのでしょうか?
2016年の熊本地震の揺れを再現した防災VRです。学校の教室にいると突然…鳴り響く緊急地震速報。大きな揺れで窓ガラスが割れ、固定されていない机やイスが倒れ、蛍光灯が落下。揺れは、気象庁のデータを基に再現したものです。
過去に発生した大地震の揺れによって、自分のまわりのモノが、どのように倒れたり、押しつぶされたりする危険性があるのか、実体験できます。仮想現実の世界で疑似体験することで、家具の固定をするなどといった日頃の備えの必要性が理解できます。
一方、火災ARでは、自分がいる現実の世界に、バーチャルの火災が再現されます。そして、どのように消火したらいいかを体験するほか、もし、延焼が進んだ場合は消火をあきらめて逃げることも学べるといいます。
これらを開発したのは、神奈川歯科大学の板宮朋基教授。きっかけは2011年の東日本大震災だったと話します。
神奈川歯科大学 板宮朋基教授
「自分が何かテクノロジーで貢献できないかと実感しまして開発をはじめました。普段から災害のリスクを実感して、いざという際には体が動く、率先して避難できるようなトレーニングができないかなと」
XRで学ぶ防災は、従来の防災訓練と何が違うのでしょうか。記者が「煙のAR」を体験してみました。
記者
「辺り一面煙が充満しています。周りが全く見えません」
黒煙が広がり、立った状態では、視界が覆われてしまいます。
記者
「しゃがんでみますと周りが見えます。出口が見えてきました」
板宮教授
「普段はすぐに逃げられるような場所でも、視界を覆われてしまうと非常口そのものの場所がわからない。ARで煙を体験しても煙が充満してしゃがむとやっとその場が見えるので、そこではじめて“自分のこと”として実感できるようになります」
火災で煙からどんな姿勢で逃げればいいのか実感できました。さらには、煙は上にあがるため、非常口のサインを、見えにくい上部ではなく、足元周辺に設置するなどといった、設備上の避難対策にも気づくことができるといいます。
「浸水AR」では――
板宮教授
「実際ARで1メートル目の前に出してみると、そこのある机も全部水の下ですし逃げようと思っても足元もわからない。非常に逃げづらい実際には水の流れもきますので、これは助からないなというリスクを実感できる。1回体験してもらうと、例えばあるときに津波警報がでて、50センチ・1メートルと聞いたらこれはやばいということで“真っ先に逃げるきっかけに”なると思います」
普段から“じぶんごと”として捉えて、危険を理解することで、いざという時の“逃げる行動”につながるのではないかといいます。これまでの防災訓練がマンネリ化しているとの声もあるなか、疑似体験できる防災XRを、100以上の学校が取り入れ、さらに自治体でも活用しはじめています。今後、新たな防災教育として期待されています。
バーチャル体験した小学生は何を感じたか、感想を聞いたアンケートを見てみると「煙を吸ったり水に流されたりしまって命を落とす可能性がある。体験したように災害は怖いと思った」「万が一のために必要なものを備えようと思った」など、危険を疑似体験することで実感がわき、初めて理解した、などの声が寄せられました。
板宮教授は今後、国や自治体ななどと連携して防災XRを教育現場だけではなく、一般の人も利用できるようにして広めていきたいと話しています。