鎌田實氏が読み解く「被災地の在宅医療」
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。10日は「被災地の在宅医療」がテーマ。諏訪中央病院・鎌田實名誉院長が読み解く。
【医師が足りない】
被災地では医師の数が足りていない。そんな中、患者の自宅に医師が出向いて診療を行う「在宅医療」が注目されている。そこで先月、宮城県で「在宅医療」のできる医師の育成に力を入れている病院を取材した。
鎌田名誉院長が訪れたのは宮城県石巻市。仮設住宅の中に被災者支援の目的で設立された石巻市立病院開成仮診療所。被災した石巻市立病院の仮診療所という位置づけだ。この診療所では、市内全域の「在宅医療」に取り組んでいる。
訪問するのは研修医とその指導を行う医師、看護師の3人だ。この日、診察したのは小野寺ちよさん(89)。去年、足を骨折してから寝たきりの状態が続いている。
基本的に小野寺さんを診察するのは、後期研修医の西俊祐医師(32)。その様子を指導医の遠藤貴士医師(39)が見守る。小野寺さんは数日前に意識がなくなることがあったということで、この日、採血して血液検査を行うことになった。
ただ、採血を行うかどうかの判断については、研修医の判断だけでなく、指導医と相談した上で決めた。
鎌田名誉院長は、遠藤医師に採血の理由を聞いた。
遠藤医師「今後、大きな問題を起こしそうなものが何かということを考えて、採血でできることを調べるということにしました」
鎌田名誉院長「簡単そうに言っているけれども、ものすごくこの家の立場とか、介護している娘さんの立場とか、おばあちゃんは何々されたら嫌だろうなとか、たぶんいろんなことを2人は考えながらきちっと議論していたのを見て、すごいなと思って」
小野寺さんの娘・雫石範子さん(66)「私のこともすごく遠藤先生気づかってくれて、いつも大丈夫?大丈夫?ってね。すごく気づかってくれるんですよ」
鎌田名誉院長「小野寺さんのお宅のような方たちがいることで、ますます医師は集まってやる気は出てくるし、いつかは石巻だけじゃなくて、東北の支援にもつながるかもしれないよね」
遠藤医師「医者はきっと地域の人にも育ててもらっていると思うので、僕たちも医療をしていますが、育ててもらってるということは大きいと思います」
ここでは、訪問診療して回る医師と地域の住民とがお互いを支え合ういい関係を築くことができていた。
【在宅医療の医師を育成】
現在、開成仮診療所には遠藤医師のような被災地で働きたいという指導医が集まってきている。また、その指導医のそろっている環境で在宅医療を学びたいという若い医師も集まってきていて、石巻では在宅医療の医師を育成する態勢が整い始めていた。
さらに、今年9月には石巻駅前に石巻市立病院が完成する予定となっていて、さらにしっかりとした医療態勢が整うことになっている。
石巻市立病院開成仮診療所の所長・長純一医師(49)は今後について、「社会的な問題に関心を持ちながら、具体的には総合診療とか在宅医療とか、地域包括ケアを遂行できる医者を育成する。その拠点を作れるようにと思っています」と語っている。
指導医の遠藤医師は諏訪中央病院の医師だった。診療所には遠藤医師を含めた指導医が4人、後期研修医が3人、計7人の医師がいる。在宅医療を含めた地域包括ケアを目指していて、在宅医療を進めている日本の病院のトップグループのひとつだ。
新たに石巻市立病院が9月にオープンすることで入院治療もできるようになり、将来的には医師不足の続く東北を救う存在になるかもしれない。
【被災地を手本に】
高齢化が進む中、住み慣れた地域で必要な医療などを受けつつ、安心して生活を送ることのできる社会づくりは欠かせない。被災地・石巻での取り組みを手本にしながら、全国でもこの取り組みを進めていくことが今、求められている。