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【後編】麻酔科医が足りない…無痛分娩の賛成8割超えなのに実施率1割以下のワケ【独自アンケート】

2023年9月24日 9:00
【後編】麻酔科医が足りない…無痛分娩の賛成8割超えなのに実施率1割以下のワケ【独自アンケート】

麻酔により出産の痛みを緩和する無痛分娩。欧米では一般的になっている国もある中、日本での実施率は8.6%にとどまる(2020年)。その理由を探るべく、独自アンケートを実施すると、女性が無痛分娩を選ぶことへの賛成は8割を超えた。では、なぜ広がっていないのか。その背景には、費用負担の問題に加え、無痛分娩を実施できる麻酔科医が足りない現状があった。(日本テレビ報道局 細川恵里)

■無痛分娩ができる医療機関のかたより

神奈川県立保健福祉大学の田辺けい子准教授は、費用負担が重いことのほかに、もうひとつの問題点を指摘する。「無痛分娩を取り扱う医療施設の数が都市部と地方とで圧倒的な格差が生じている」ということだ。麻酔の専門的な知識が必要な無痛分娩。専門知識と技術を持った麻酔担当医がいない医療施設では実施すること自体が難しいという。調査でも、町や村では、無痛分娩経験者の割合が顕著に少ない結果となった。

■無痛分娩ができる麻酔科医を増やすために

無痛分娩を受けたくても受けられない状況をどうすべきか。日本産科麻酔学会の照井克生理事長は、「無痛分娩ができる麻酔科医を増やすことが必要」と指摘する。そのために、日本産科麻酔学会などが教育の機会を増やしているほか、無痛分娩など産科麻酔の専門知識を学んだことを認定する「認定制度」も検討しているという。「認定制度ができれば、産科麻酔や無痛分娩に興味を待つ麻酔科医が増えるのではないか」。

さらに、将来的には、地域の産科クリニックなどで日々の健診などを受けつつ、出産する場所を総合病院などに集める『出産施設の集約化』が必要ではないかという。「そうすれば、地域の産科クリニックで診察を受けられるというメリットも維持しつつ、出産の際の麻酔医科医による無痛分娩の処置や、急変にも対応できる」。

■無痛分娩ができる産婦人科医を育てるために

一方で、麻酔科医を増やすだけでなく、無痛分娩ができる産婦人科医を育てることが必要だという人も。産婦人科の専門医で麻酔科の指導医でもある入駒慎吾医師は、麻酔科医のいない医療機関の産婦人科医に、安全に無痛分娩を実施するための専門知識を教えるなどのサポート活動を行っている。都立病院なども含め、30を超える施設を継続的にサポートを受けているという。

先月8日、さいたま市内のクリニックに訪れた入駒医師は、クリニックの産婦人科医や助産師らに安全な無痛分娩について講義を行った。この石川病院の石川博臣院長は秋にも無痛分娩の導入を考えているといい、「ハードルは高いが、安全な無痛分娩を取り組みたい」と熱心にメモをとっていた。

現状、無痛分娩を行う医師の過半数が麻酔科医でなく産婦人科医であるという状況をふまえ、入駒医師は、「産婦人科医に安全な無痛分娩の知識と技術を身に付けてもらい、安全な無痛分娩を行ってほしい」という。そのため、サポートは、無痛分娩に関する座学から始まり、実際の麻酔の処置など実技を学ぶ研修と続き、さらに無痛分娩の扱いを開始した後はその施設の全ての症例をチェックして、改善点の指導を続ける。入駒医師は活動を通じて、「出産する人が出産方法を選べる世の中にしたい」という。

■女性が出産方法を選べる社会に

女性が無痛分娩を選ぶことに賛成する人は、8割。私達が取材した無痛分娩で第1子を自然分娩で、第2子、第3子を無痛分娩で出産した女性は、「自分はたまたま産院が見つかったが、無痛分娩が受けられない人もいると思うと悔しい」と思いをこめた。希望する女性がひとつの選択肢として、無痛分娩を選ぶことのできる体制が望まれている。

<調査方法について>

本調査は、2023年6月21日(水)~22日(木)に、大手リサーチ会社に登録したモニターを対象に行い、20代以上の男女1054人から有効回答を得ました。年代、性別、居住規模については国勢調査の割合に近づけて行いました。なお、原則として小数点第2位以下を四捨五入しているため合計と内訳の計が必ずしも一致しません。

監修:神奈川県立保健福祉大学・田辺けい子准教授
協力:JX通信社