長野産カラマツを「日本の香り」に…奮闘記
長野県産の「ある木材」を使った商品開発を目指す男性がいる。目指すのは信州から「日本の香り」をつくり出すこと。いくつもの壁にぶつかりながら奮闘が続いている。奮闘の様子をテレビ信州が追った。
香りを楽しむアロマのエステを営み、商品の研究・開発も手掛けている市井真太郎さん(35)が訪れたのは、長野県南佐久郡川上村。川上村の森林の約6割は「カラマツ」。しかし、乾燥させるとねじれが出てしまう性質から、建築材には向かないとされてきた。
全国的にも有数のカラマツの産地であるにもかかわらず、その販路の狭さから注目度はあまり高くない。「だからこそ、その魅力を見出したい」と市井さんは考える。
「(木の香りは)日本人にとっては、なじみ深い。だからアロマにとっても木がいいのかなと。日本では『落ち着く香り』と言われています。カラマツも、もっと日の当たる場所に、彼らが主役になるような位置付けで商品開発ができないかなと思って取り組んでいます」
「いい香りになると言われているのが、皮の中ですね。調べていくうちに、カラマツは水に強いとか腐りにくいとか、アロマの香りにも、何か人間にとっていい影響を与えるのではないか」
市井さんが川上村に通い始めたのは去年7月。カラマツの事を調べながら何度も足を運び、カラマツの森と向き合ってきた。そんな市井さんのアイデアに、地元の林業関係者も期待を寄せる。
南佐久南部森林組合・渡辺正美さん「建築材として使われず、土木用材として土の中に埋まっていたり、そういうことに使われていた木ですので、もっと世に出てくれるといいなと思います」
しかし、カラマツからのアロマ開発は容易ではなかった。ヒノキやスギの場合、細かくした木材を蒸留し、アロマに必要な「オイル」を取り出すが、カラマツからはオイルが取れなかった。そもそもアロマ商品には向かない素材だったのだ。市井さんは語る。
「正直、がく然としましたね。『オイルがいっぱいある』と聞いていたんですけど、全然オイルが分離しないので」
それでも彼がこだわったのは「まだ日本にないアロマ」を作り出すこと。「ならば、オイル以外から香りの成分を取り出せば、商品になるのではないか?」―試行錯誤の末に行き着いたのが、チップにした木材から「蒸留水」を取り出す方法だった。
そして生まれたのが「消臭スプレー」。カラマツには消臭効果が期待できる成分が含まれていると言われていて、森林浴をしたような森の空気が広がる。
商品の試作品を持って市井さんが向かったのは、東京・渋谷区にあるアパレル会社「フランドル」。
「アロマに興味のない人でも手に取ってもらえないか」―この日は、女性モデルも交えて商品への率直な意見を聞いた。
アパレル会社「松の香り。子どもの頃の松ぼっくりとかの香り。そんなイメージ」
女性モデル「長野の香り。外国人にも受けそう」
アパレル会社「ターゲット層ってどの辺なんですか?」
市井さん「実は決まっていないんです」
アパレル会社「アッパー(年配の方)の女性を狙うのかどうかで、商品が変わるんですよね」
試作品の感触はまずまずだったものの、課題が残った。
市井さんは語る。「カラマツにもこういう香りがあるんだとか、これだけ長く親しまれているには、必ず何か理由があるはずなんですよ。いずれは、それが見つかればいいなと」
建築材ではない木の使い道。試行錯誤が続く中、市井さんの夢は川上村のカラマツの香りを「日本の香り」として広めること。カラマツの新しい活用方法と販路に期待が集まる。