×

弊害多い“長時間労働”なぜ減らない?

2016年9月16日 19:23
弊害多い“長時間労働”なぜ減らない?

 先週、厚生労働省は、長時間労働をなくすための検討会を立ち上げた。検討会では、事実上、無制限の残業を課すことができるいわゆる「36協定」が長時間労働の要因のひとつになっているという声を受けて、残業時間に上限を設ける方向で議論を始めた。

 日本は、先進諸国と比べて労働時間が長く、一般労働者の総労働時間をみてみると20年前から2000時間を超える状態が続いている。長時間労働は、過労死にまで至る可能性があり、男性の育児参加を阻み、その結果、出産した女性の職場復帰を遅らせるなど少子化が進む一因ともいえる。さらに、介護離職の原因にもなるので長時間労働の見直しは急務だといえる。


――労働時間については、法律で上限が決まっているのでは?

 1日8時間、週40時間が上限となっていて、それを超えて働かせてはならないことになっている。ただ、管理監督者などのように法律上、このルールの適用除外になっている人がいるほか、労働基準法36条では、企業側が労働者の代表などと協定を結んで、労働基準監督署に届け出れば、残業をさせてもよいとされている。この協定を“36協定”と呼んでいる。


――“36協定”で残業時間に上限はないのか。

 延長できる時間の上限は告示によって決まっているのだが、例外があり、特に忙しい時期などに対応するため特別条項という制度がある。これは、特別の事情が生じた場合に一定期間、上限を超えた残業をさせることができる制度で、この場合の残業時間については制限が設けられていない。


――制限がないと働く側には負担では?

 協定を結んでいる企業は、全体の半数以上あって、そのうち特別条項付きの協定を結んでいる企業は、全企業の22.4%ある。そして残業時間の上限が過労死を招くとされている月80時間を超えて設定されている企業は全体の4.8%もある。


――なぜ日本では、労働時間を減らすことができないのだろうか?

 労働時間と昇進との関係を分析したところ、男女ともに労働時間が長いほど、昇進しやすいことがわかった。

 さらに賃金の問題もある。一般の従業員は残業がなくなれば、多くの場合、今よりも給料が減ってしまう事が考えられる。つまり、長時間労働が減らない原因のひとつには、賃金の問題も大きく関係しているというわけだ。


――どう対策していけばいいのだろうか?

 今回のポイントは「労使の意識改革」。政府は“1億総活躍社会”の実現のためにも“働き方改革”を打ち出していて“36協定”を見直したり罰則を厳しくしたりすることを検討している。

 しかし、それだけではなく従業員側の意識改革も必要だ。例えば、人材派遣大手のリクルートスタッフィングでは、業績の良かった部署に社内表彰しているのだが、部署の中に1人でも残業時間の上限を超えた場合、表彰の対象から外すことにしたという。すると、従業員の意識が変わり残業はなるべくしなくなったという。その結果、深夜労働が86%、休日労働も75%減ったとのことだ。ほかの要因もあるが効果が出ているといえるだろう。

 しかし、やはり重要なのは企業側の意識改革だ。残業が賃金アップに結びついている現状を考えると、企業には残業が減っても生活に困らないように、賃金を上げる努力が必要だといえるだろう。