こどもの意見聴く「新たなチャレンジ」国・自治体に4月から義務付け
こどもや若者に関する政策を決める際には、こどもや若者の意見を聴くことが、4月から国と地方自治体に義務付けられます。意見をどう集めるのか、具体的な方法や課題を検討してきた国の検討委員会が、2月27日、報告書の案をおおむね了承しました。正式な報告書は、3月中に発表される予定です。
「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会」は、4月に発足するこども家庭庁の設立準備室が開催してきました。
こどもの権利や若者の政治参加に詳しい研究者らを委員として、国内や海外事例の調査、有識者などのヒアリングを行ったほか、モデル事業として、こども・若者2300人以上に、対面やオンライン、WEBでのアンケート、児童養護施設への訪問などを通じて、どのようにしたら、国や自治体に意見を言いやすくなるかなどを聞いて、報告書案をまとめたということです。
■こどもには意見を言う権利がある
「子どもの権利条約」(世界約200か国が批准、日本も1994年に批准)は4つの原則として、
*子どもへの差別禁止
*子どもの最善の利益を第一に考える
*子どもの生命、生存、発達の権利、と並んで、
*子どもの意見の尊重
が盛り込まれていて、こどもには、自分に影響を与えることがらについて、自由に意見を表す権利と意見を聴いてもらえる権利がある、と書かれています。
そして、国内でも、今年4月に施行されるこども基本法の基本理念に「すべてのこどもが年齢や発達の程度に応じて、自分に直接関係するすべてのことに関して、意見を表す機会や多様な社会活動に参加する機会が確保される」「すべてのこどもは年齢や発達の程度に応じて、その意見が尊重され、その最善の利益が優先して考慮される」と書かれています。
こども基本法の第11条では「こども施策を作る、行う、評価する際には、その施策の対象となるこども、又は養育する者や関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じる」ことは国と地方自治体の義務だと定めています。
こうしたことから、こども家庭庁設立準備室は、今後、どのようにこどもの意見を拾いあげるのか、具体的に示す必要がありました。
■こどもの意見を聴く、新たなチャレンジ
細かい文言の修正を経て、正式な報告書は3月中に発表される予定ですが、27日の会議でおおむね了承された報告書案には、「政府においては、これまでこどもや若者の意見を政策に反映する取り組みが十分に検討されてきたとは言い難く、こうした取り組みは新たなチャレンジである」「こども施策の決定プロセス自体もこどもや若者中心に変えていくことが強く求められている」と書かれています。
基本的な考え方としては、こどもや若者は「保護者や社会の支えを受けながら自立した個人として自己を確立していく意見表明と自己決定の主体」であり、「いまを生きる市民、ともに社会を創るパートナー」だと書かれています。
そして、「誰一人取り残さず」、声をあげにくい立場(いじめ被害、不登校、被虐待経験、病気、障害、LGBT、貧困、ヤングケアラー、外国籍等)のこどもや若者の意見を聴くことの重要性も述べています。
そして、「意見」とはまとまった考えや提言だけでなく、言葉にならない感想や気持ちも含まれるということです。
こども・若者の意見を聴き、国や自治体の制度などに反映させる意義については、「ニーズをより的確に踏まえ、施策がより実効性あるものになる」としたほか、「こども・若者にとって、自らの意見が十分に聴かれ、自分たちの声によって社会に変化をもたらす経験は、自己肯定感や社会の一員としての主体性を高めることにつながる。ひいては、民主主義の担い手の育成に資する」と説明しています。
「意見をすぐに表せる者ばかりではない。意見には、非言語も含まれる」「意見や気持ちを表現していいという雰囲気づくりが求められる」とも述べています。
■家庭や学校でも…大人社会の意識を変える
さらに「家庭や学校、地域で、意見を聴かれ、その意見が尊重される機会を乳幼児の頃から思春期に至るまで持つことができるよう、大人社会の意識を変え、こどもが自由に意見を表明しやすい環境と文化の醸成に社会全体で取り組む」と述べ、国や自治体だけではなく、保護者や教員、周りの人にも、こどもの意見を聴く姿勢を持つことを呼びかけました。
また、国や自治体に対しては、「こども・若者の意見とは異なる結論が導かれることはあり得る」としつつも、「検討プロセスや結果を適切なタイミング・方法で、こども・若者に分かりやすくフィードバックすることが不可欠」「大人の都合の良いように解釈したり、意見を聞いただけで終わらせる『参考意見扱い』では、こども・若者が参画したとは言えない」と指摘しています。
■意見を聴く方法・注意点は?
報告書では、意見を聴く具体的方法として、「こども・若者の状況や特性、希望に応じた様々な選択肢を用意」することを提案しています。
また、公募では、応募するこどもは限られているなどから、「特定少数の意見を聴くことで、こども・若者全体の意見を聴いたことにしない」「積極的に意見を言える、言いたいこども・若者だけでなく、意見を言わないこども・若者や、弱い立場に置かれたこどもも含めた多様な声を聴くよう努める」とし、聴く側が放課後児童クラブや施設などに出向く取り組みも考えられるとしています。
そして、具体的な方法としては以下を挙げました。
*対面やオンライン
*SNSを活用したチャット形式
*インターネットによるアンケート
*児童館などを通じたアンケート
*こども・若者を対象としたパブリックコメント
*役所の審議会などへのこども・若者参画(こどもの委員の数は多くし、一人にしない)
*児童館、児童養護施設などに出向いての意見交換
なお、約2100人のこども・若者を対象に行ったWEBアンケートによると「意見を伝えやすい」方法は、支持が多かった順に…。
*WEBアンケート
*インターネットのフォーム
*LINEなどのチャット
*メール
*オンラインでの対面
*Twitterを使って伝える など
また、「意見を伝えやすい」ルールとしては、「自分の顔や名前を明かさずに参加できる」「意見の伝え方やテーマを事前に学ぶ機会がある」「意見がどう扱われるのか分かる」などを選んだ人が多くいました。
報告書では、意見を聴く手法をめぐる注意点としては、以下のことなどを挙げました。
*人数や回数、期間などは多様に組み合わせるのがよい
*SNSでは、使うアプリ等を慎重に検討することや、ITをめぐる教育強化、ネット環境にないこどもなどへの配慮も必要
*大人が聴きたい時に、聴きたいテーマについてだけ聴くのではなく、いつでも意見を言えるような仕組み・場をつくる、テーマ選定からこども・若者が主体的に参画できるようにする
*出された意見を大人の都合の良いように解釈しないための配慮や工夫が必要
■聴く側の姿勢「こどもを見下さない」
報告者では、聴く側の姿勢や体制では、以下のことなどが重要だとしました。
*こども・若者を見下すことなく、対等な目線で一緒に考える。
*低年齢のこどもは意見を持たないのではなく、言葉によらずとも、泣き声や表情等により気持ちを表現している。
幼児は保育士等による適切なサポートのもと、絵を描く、人形に投影して意見を伝える方法なども有効。
*こども参加に取り組むNPOや大学等との連携、委託などで体制確保
*大人の人数や服装を工夫(こどもの緊張や不安への配慮)
*年齢、発達に応じたわかりやすく、十分な情報を事前に提供
*行政職員などに「こども基本法」の研修、行政トップによるコミットメント(責任を持って関わる)、こども・若者による提言を実現する独自予算の確保
■「聴く方法」こども・若者の意見は?
意見を聴く方法について、こども・若者からの意見としては、「ネットでの24時間受付フォームはかなり普及しているはずなのに、国や自治体では取り入れられてない印象」「若者がいつでも自由に意見できるチャット的な窓口が開いていたら自由に書き込みできるかも」「大人が聴きたいこととこどもが話したいことは違う」「アンケートは運営しやすいが、意見を言いたい人だけの声になる」などがあったということです。
■こども家庭庁への提案 「進行役の育成を」
報告書では、こども家庭庁への提案としては、こども・若者が安心して意見を言えるよう、こどもの権利に詳しく、様々なこどもの状況にも配慮できるファシリテーター(進行役の人)の育成が不可欠としました。
また、新たにできる「こども家庭審議会」の委員等にこども・若者を登用する、政府が秋にまとめる「こども大綱」にこども・若者の意見反映の具体策を盛り込み、実施する、こども・若者の意見表明や参画に関する調査研究の充実なども求めました。
■「意見伝えても反映されないと思う」にどう応えるか?
報告書のために、約2100人のこども・若者を対象に行ったWEBアンケートでは「子どもの意見表明権」について、
*「知らなかった」 36.5%
*「聞いたことはあるが、内容は知らない」 37.5%
*「聞いたことがあり、内容も知っている」 26.1%
報告書でも、まずは、意見を表す権利があることを知ってもらう機会を、と呼びかけています。
WEBアンケートでは、「国や自治体に意見を伝えたいと思うか」と問うと
*そう思う、やや思う 68.4%
*そう思わない、あまり思わない 27.3%
*その他(わからない、答えたくない) 4.3%
意見を伝えたいと思う理由で多いのは、「伝えなければ分からないと思うから」「伝えたい、聴いて欲しいことがあるから」。一方、意見を伝えたくないと思う理由では、「国や自治体に意見を伝えても反映されないと思うから」が最も多く、ついで「どのように国や自治体に意見を伝えればいいか分からないから」と「国や自治体が何をしているのか、どんな人がいるのか分からないから」がほぼ同じ割合でした。
こうした意見にどう応えるのか、大人の側が問われています。