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プライベートゾーンって? 子供を性犯罪・性暴力から守るための性教育

2022年3月16日 21:38
プライベートゾーンって? 子供を性犯罪・性暴力から守るための性教育
国連の「国際女性デー」にあわせて日本テレビが展開している情報発信#自分のカラダだから「子供を性被害から守るための性教育のあり方」を、警察庁の現役官僚で慶應義塾大学の教授として治安や社会の安全を研究している小笠原和美さんに聞きました。

■プライベートゾーンを守る 体の大切な部分を教える意味

ーー性犯罪・性暴力は被害者の尊厳を著しく踏みにじり、心身に長期にわたり重大な悪影響を及ぼす、極めて悪質な行為です。小笠原和美さんは警察官僚として長く、性被害の対策に取り組んできました。そのなか、幼児期からの性教育が大切だとして監修したのが「おしえて!くもくん」という絵本です。どのような内容でしょうか。

幼児期の子どもたちに、みんなの体には大切な部分があるということ、そしてそれを守るためにどうしたらよいかを分かりやすく伝える絵本です。具体的には、水着を着ると隠れる部分をプライベートゾーンと呼び、簡単に人に見せたり、触らせたりしてはいけないし、他の人のも勝手に見たり触ったりしてはいけない、もしプライベートゾーンを見よう、触ろうとする人がいたら、「いや」と言う、その場から逃げる、必ず大人にお話しするという対処策をとてもシンプルに、分かりやすく伝えています。

絵本は子供たちの日常の遊びの中で起こる出来事をテーマにしていますので、子供にも怖くなく、大人も伝えやすい表現になっています。できれば親御さんからお子さんへ読み聞かせをして、思春期を迎える前に、親子で話しやすい関係性を作ってもらいたいと考えています。

■表に出ない「暗数」が多い子供の性被害 「読み聞かせ」で防ぐ

ーー都内の保育園などで実際に、絵本の「読み聞かせ」が行われています。小学校に入る前から教えることの意味や意義を教えてください。

子どもの性被害の特徴として、自分がされていることの意味がわからず性的な被害に遭っている自覚がない、逆らうことができず長期にわたり被害が続くことなどが挙げられます。子どもの性被害はとくに、統計などで表に出ない「暗数」が多いのです。

日本の子どもたちは、自分の体には守るべき部分があることや、そこを侵害された時にどう対処したらよいかを教えられていません。

ーーもし被害にあったとしても、「おかしい」「やめてほしい」と普通に声をあげられるようにすることが目的ですね。

子供たちや生徒にとって、目上の家族や学校の先生、習い事やスポーツの指導者らは、「言うことを聞くのが当たり前」という権威的な存在です。実際、子どもたちの知識のなさやこのような権力構造を利用して家族や親戚からの性的虐待が長期間続いたり、保育士、ベビーシッター、教員によるわいせつ行為が繰り返されたりと、本来であれば子どもをケアする立場の人からの性暴力も起きています。

ーー信頼できる大人からの行為ですから防ぐことが難しい、そして、心の傷も深いのではないでしょうか。

こうした性暴力は、被害を受けてから10年以上も経った思春期になって初めて被害を認識して自尊心を深く傷付けられ、リストカット、アルコールや薬物依存、性的逸脱行為に陥るなど、その後の人生が生きづらいものになってしまうことも少なくありません。性暴力は、被害者を長期間苦しめる極めて重大な人権侵害です。

■大人が学ぶことの重要性 子供のSOSに気づくためにも

ーー子供への教育とともに、大人が学ぶことも必要ではないでしょうか。

大人への啓発も大変重要です。自分がされていることの意味が良くわからないけれど何となく嫌なことをされていると感じている場合は、言葉で表せなくても、SOSが言動に表れることもあります。元気がなくなる、食欲がなくなるといったこともありますし、夜尿症(おねしょ)が再開したり、保育園へ行くのを嫌がったり、性化行動と言ってほかの子の性器を触ったり自分のものを触らせたりなどの行為が見られます。

また、子供なりに一所懸命言葉にしても、大人がそれと気づかなければSOSはキャッチできません。過去に「パパがするお姫様ごっこが嫌だ」と話した小学校低学年の女の子がいました。実際は性虐待だったのですが、先生はその意味に気づかずにその時点で介入することができませんでした。「それってどういうこと?もう少し詳しくお話してくれる?」という一言が言えていれば、具体的な状況が見えてきたかもしれません。

■「性暴力被害にあうのは一部の特別な人ではない」 女性の14人に1人が“性被害”を経験

ーー性被害についてはこうしたデータがあります。内閣府の調査では女性の7%、およそ14人に1人が「無理やりの性交等」の被害経験があると答えています。痴漢や盗撮等を含む「性暴力」の全体像を考えると、この「7%」という数字は氷山の一角に過ぎませんね。

「性暴力被害にあうのは一部の特別な人で、自分の身近にはいない」と思われているかもしれませんが違います。
性暴力はそれだけ表に出にくい問題です。また、2020年に認知された強制わいせつ事件のうち、被害者の17%が12歳以下で、そのうちの13%は男の子でした。性暴力被害は年齢・性別を問わず発生しています。

児童ポルノの被害も深刻で、2016年以降、毎年1,000人以上がポルノの被害児童として発見されています。ネットに流れた画像の回収は難しいですから、一生の問題となります。

■被害者、加害者、傍観者を作らないために“予防教育”を

ーー誰もが被害者となりうる深刻な問題として、社会全体での対策が必要ですね。

被害の予防というと、つい、「被害に遭わないように気をつけましょう」と自衛のための対策を求める働きかけになりがちですが、実際には加害者がいなければ被害者は生まれないし、その場で近くにいる人が適切に介入できれば被害を止めることもできます。

それから、被害に遭った人に落ち度があったのではないかと被害者を責める風潮・偏見がありますが、その偏見が被害者の口を重く閉ざす原因になっています。悪いのは加害者であって被害者ではない、このことを社会として改めて認識していくべきです。

そのためにも、

被害を訴えることのできない被害者

自分の行為を正当化し続ける加害者

加害の場面を見ても止めることができない傍観者

このような被害者、加害者、傍観者を作らないための「予防教育」が必要です。

■性暴力のない社会へ 教育現場の現状と課題

ーー政府も2020年6月、「生命(いのち)の安全教育」として幼児期からの、いわゆる性教育の実施を通達。文部科学省は指導の手引などを作成しました。これをどう評価しますか?

子供たちを性暴力の被害者にも加害者にもしないための予防教育は、学校教育において、これまで踏み込めてなかった部分で、第一歩として評価します。

ーー課題はどこにありますか?

教育現場で教える内容を示す「学習指導要領」では、まだありません。「特別活動」に当たり、この科目で確保できる時間は極めて限定的で、実施の可否自体も各学校の管理職の裁量に委ねられています。

性教育については、ユネスコがまとめている包括的な「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」がありますので、このような国際標準を参考に、きちんと関連する教科の中で位置付けて充実させていくべきでしょう。

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