大会延期…高校生チア部“ラストステージ”
東京新宿区にある目白研心中学校・高等学校。9月20日、チアリーディング部の特別な公演会が行われました。そこに至るには様々な試練が。新型コロナウイルスへの対策のためイチからやり直す、やりなれない演技。本番直前の思わぬアクシデント。そして、3年生の熱い思い。チアリーディングにかけた104人の特別な夏を追いました。
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チーム名の「ポラリス」とは、強く光り輝く北極星のこと。高校の関東選手権では2年連続優勝、中学・高校合わせて104人が在籍する、全国屈指の強豪校です。30代目にあたる、今年の高校3年生は26人。日本一を目標に厳しい練習を積み重ねてきました。
しかし、新型コロナウイルスの感染対策により、いつもは5月に行われる競技会が10月に延期。大学受験を控える生徒は、勉強が間に合いません。3年生26人のうち、半数以上の19人が10月の大会への参加を断念。彼女たちの夏は、終わってしまいました。
高校3年・中原杏奈さん「どうして自分の代の最後の時に、なんだろうって思いはあって、ショックだった」
キャプテンの松村さんは、10月の大会に出ることを決めていましたが、それでもショックは隠せません。
キャプテン 高校3年・松村夢喜さん「全員で高3は出られないかもと聞いた時、悲しくて悔しい思いがありました」
自分も「ポラリス」のOBである顧問の松原先生は、今年の3年生のために、何かできないか模索しました。
顧問・松原里紗さん「30代目の子たちはとにかくチアが好きで、どんなこともめげずに頑張ってきた子たちだと思っています。やっぱり最後、何かの形で6年間、3年間頑張ってきた証しを残したい、発表会をすることにしました」
チアリーディング協会や、学校に相談し、保護者の方に見てもらう「公演会」を開くことになりました。受験のために、チアリーディングをあきらめていた3年生にできた新たな目標。
副キャプテン 高校3年・土志田澄玲さん「このまま何もせずに終わってしまう不安があったので、すごくうれしい」
中原杏奈さん「自分が成長したものを見せられる場がまだあった。すごくホッとした。うれしかった」
■特別なラストステージ
公演会まで2か月。換気や消毒などの安全対策をとって、全員がひとつになって動き出しました。
チアリーディング部員「レッツゴー!」
しかし、そこには、もうひとつ問題が。チアリーディングの華とも言える、選手を高く投げ上げて作る「スタンツ」が、密になるため、協会のガイドラインで、禁止されてしまったんです。そこで、松原先生は「タンブリング」という床運動を中心に演技を考えました。
先生やコーチたちは、演技の構成を考えるだけ。練習は、生徒の自主性に任せています。その練習を仕切るのは、中学から6年間、「ポラリス」にかけてきた、キャプテンの松村夢喜さん。みんなでひとつになることの大切さを訴えます。
キャプテン・松村夢喜さん「全力でやったらスタンツがなくても思いを込められると思うし、みんなの顔を見られると思うから、最高の演技が作れるようにしましょう」
全員で集まれるのは、日曜日の2時間だけ。わずかな練習時間で仕上げなければなりません。今までは、あまり練習してこなかった「タンブリング」という床運動。きれいな着地が難しく、全員の心があっていないとそろいません。
キャプテンの松村さんは、ある決心をしました。今までやったことのない、伸身宙返りに、横回転を加えた「ロンダートひねり」をやる。そのための特訓の日々が続きます。「バック転」はできても、「ひねり」が入らない…。本番1週間前。
顧問・松原里紗さん「ここで緩んでるの体が。この瞬間ギュッと締めたら入るから」
できました。
キャプテン・松村夢喜さん「さっきのは、しっかり体が1本に締まってから速くひねられたので回りきれました」
それぞれが、自分で課題を持って挑む、かつて経験したことのない練習の日々。つらい練習に、自ら立ち向かった2か月間。改めて感じたことは――
副キャプテン・土志田澄玲さん「ひとりではチアはできないと感じていたので、最後に仲間とのつながりを大切にして演技したい」
顧問・松原里紗さん「やっぱり6年間、3年間、やってきたことを、自信を持って今を生きている感じがあるので、コロナのこの状況も乗り越えられると信じられる代です」
公演会当日。午前中、最後の練習が行われました。そこで、トラブルが。キャプテンの松村さんが滑った時に、手を痛めてしまいました。本番直前になって襲ってきた「ロンダートひねり」への恐怖。
キャプテン・松村夢喜さん「怖くなってしまって、いつもの回りができなくなってしまった」
痛めた手のままのぞむ本番…。公演会の観客は、ポラリスを支えてきた保護者たち。入場できるのは、ひと家族2人までに限られました。
公演会が始まりました。いつものダイナミックさはないけれど、それぞれの思いが駆け巡る青いマット。仲間が気合いを入れて松村さん、「ロンダートひねり」に挑みます。果たして…成功です!
3年生26人だけで踊る最後のダンス。自分たちでデザインした、自慢のユニホーム。もう着ることはないと、一度はあきらめたユニホームがマットの上で輝きます。先生とコーチも、待ちのぞんだこの瞬間。フィナーレの前に、松村さんたち3年生の代表が挨拶をしました。
キャプテン・松村夢喜さん「当たり前だったことは、本当は当たり前じゃなくて、全てのことに感謝しなくてはいけない。そんな大切なことを感じられたコロナ期間でした。私たち3年生のことを、『最後の1年間だったのにかわいそうだね』と言う人がいます。でも私は今こうやって大好きな仲間と大好きな人たちに見守られながら、大好きなチアリーディングができて本当に幸せです。そして104人、自分の強い意志を持って、自分の足でしっかりこの青いマットに立って輝きます」
大好きな仲間たちとともに輝くフィナーレ。
「せーの!ヨッシャー!」
キャプテン・松村夢喜さん「一瞬一瞬を大切にやろうと思って、かみしめて演技しました」
副キャプテン・土志田澄玲さん「ポラリスの104人で、最後に『ヨッシャー』って言えて、すごくうれしかったです」
中原杏奈さん「絶対忘れない思い出だと思います」
そして、松原先生が3年生にかける最後の言葉。
顧問・松原里紗さん「このコロナに負けないで、自分たちの足でしっかり立ってこの状況を乗り越えてくれた。すごく誇らしい。この経験をしたら、絶対これから先、どんなことがあっても絶対強くいられると思うから、強く歩いていってほしいなと思う」
チアリーディング部員「ありがとうございました!」