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パパの育休なぜ必要?働き方改革で子どもが増えるワケ

2023年3月18日 17:02
パパの育休なぜ必要?働き方改革で子どもが増えるワケ
写真:アフロ

男性の育児休業を推進する動きが見られますが、男性育休の取得率の平均は約14%。ある取り組みで取得率が90%を超える企業も。そもそも、なぜ男性育休が重要なのか。また「働き方」が少子化に及ぼす影響について取材しました。

■日本の男性育休の実態

2021年度の日本の男性の育児休業の取得率は平均で13.97%。9年連続で増加していますが、政府は、きょう(3月17日)、男性の育休取得率の目標を大幅に引きあげ、2025年度に50%、2030年度に85%とすることを表明。果たして、あと2、3年で50%を達成できるのでしょうか。

そして、男性育休を促進するため、今年4月からは、従業員1000人以上の企業などには、男性の育休取得率を公表することが法律で義務づけられます。

そのほか、岸田総理は、3月17日の会見で、産後の一定期間に「男女で育休を取得した場合の給付率を“手取り10割”に引き上げる」と表明、具体的には、子どもが産まれた後8週間以内の男性が使える「産後パパ育休」という制度で、現在は休む前の賃金の67%分の給付金をもらえますが、政府は、これを80%まで引き上げる方針です。社会保険料の免除により、手取りでみると100%補てんされるようにし、女性についても同様の対応をとる方針です。

また、現在は、男性の育児期間中に完全に「休業」した場合に支払われている「育児休業給付」を、休業ではなく時短勤務の場合でも給付できるよう、制度を見直すこともあわせて表明しました。

■男性育休”推進”企業

こうした中、厚生労働省が男性の育児参加を推進する目的で組織した「イクメンプロジェクト」と、ワーク・ライフバランス社とNPO法人フローレンスが共同で行った男性育休を推進する企業、141社の調査結果を発表しました。

調査によりますと、この141社の2022年度の男性育休の取得率は平均76.9%でした。2020年度は52.0%、2021年度は59.7%で、この3年で約25ポイントも増えました。一方、取得日数は2022年度は平均41日で3年間で大きな変化はありませんでした。

また、今回の調査で働き方改革と男性の育休取得にも関係があることがわかりました。職場全体で働き方改革を実施している企業は、そうでない企業に比べ男性育休取得率が高く、また取得日数も働き方改革をしていない企業は17日、している企業は33日と、約2倍でした。「仕事の属人化(それぞれの仕事を特定の人のみが担当している)」を解消していなければ、取得率が伸びないと考えられるということです。

そして、子どもが産まれる当事者以外の社員に対しても、男性育休の重要性や制度、方針を学べる仕組みや情報を入手出来る方法が用意されている企業・団体のうち7割以上で、男性育休取得日数が30日を超えていました。こうした一部の企業・団体では、男性育休への取り組みが進んでいることがわかります。

■「トップ」の意識改革が男性育休推進のカギ

この141社の調査で、男性育休取得率の伸びが特に大きかったのが、紙製品の加工などを行う大王製紙株式会社です。2020年度は男性社員の育休取得率は6.3%だったのが、2022年度には93%まで大きく増えました。

男性の育児休業取得率100%の実現を目指すことを2021年5月に社長名で宣言。プレスリリースを発表し、社内の意識改革を促したほか、配偶者が出産予定の社員に「父親の仕事と育児両立読本」(通称「パパ読本」)を配布し、育休取得の目的や社員の育休体験談等を紹介し、育休をより身近なものに感じられるよう取り組んだといいます。

それ以外にも、男性育休の必要性を学ぶ研修を管理職には必須とする、役員リレービデオメッセージで男性育休を応援する動画を配信など、会社のトップから意識を変え、育休を取りやすい環境を整えたことが功を奏したといえます。実際に育休を取得した男性社員は「協力してくれる人が多かった」と話しています。

一方、従業員が少ない中小企業は、男性育休推進が難しいと思われがちですが、力を入れているところがあります。

屋根の金具などを製造するサカタ製作所(本社:新潟県長岡市)は従業員は約160人、男性育休の取得率は2018年から5年連続100%を達成しています。取得日数は平均154日。この会社も、トップによる意識の改革、呼びかけが結果を出しています。

2016年、育休をとりたいと男性社員が総務に相談し、その場を偶然通りかかり、話を聞いた社長が次の日の朝礼で「男性も育休を積極的に取るように」と話したということです。その後数年はまだ取りにくい雰囲気だったそうですが、取りやすい環境を作るため働き方改革を進めました。

仕事をペアで行う、チームで知識、情報を共有など、誰が休んでも仕事が滞らない体制を作ったほか、育休推進を本格的に始める前から、無駄な作業を見直し、残業ゼロにむけた取り組みを進めていたことも育休取得をしやすくしたということです。こうした取り組みの結果、従業員の家庭で産まれた子どもの数は取り組み前の4.5倍になったといいます。

■なぜ男性育休が重要?

そもそも、なぜ男性育休が重要なのでしょうか。

日本の少子化や労働問題などを研究しているハーバード大学のメアリー・ブリントン教授は、日本では「女性が出産後に最初に頼りにするのは夫ではなく自分の母親や夫の母親だ」と指摘しています。その背景には「育児休業をとれない夫に頼ることが出来ない」という実態があるといいます。もし”女性だけ”が育休をとると、結果的に子育てを一人でする、いわゆるワンオペになってしまいます。

女性は産後、ホルモンバランスが不安定になりやすく、特に産後2週間から1か月の間は「産後うつ」になりやすいといいます。その時期をしっかりケアし、まとまった睡眠をとるなど育児に疲れや不安を感じない環境を作り、「孤独」にしないことが重要です。

また、第2子以降の出生について、夫が家事、育児に携わる度合いが大きく影響するというデータがあります。内閣府の発表では、夫が家事、育児をしない家庭では第2子以降の出産が10%にとどまる一方、夫が休日に6時間以上、家事、育児をする家庭では、90%近くで第2子以降が産まれているのです。

ブリントン教授は、とくに日本では少子化や仕事と家庭の両立を「女性の問題」ととらえ、これまで女性の両立を支援する政策を推進してきたと指摘しています。しかし、男性の育休をはじめ、両立を「男女の問題」として考えないことには、子育てをしやすい環境を整えることが出来ず、結果的に少子化の状況は変わらないとし、男性が仕事と家庭を両立できるようにする政策を、政府は積極的に採用すべきだとしています。

■少子化対策には働き方改革が必須

またブリントン教授は、日本の少子化の原因の一つに「長時間労働」があると指摘しています。ブリントン教授によると、ヨーロッパの場合は労働時間が比較的短いため、家庭と仕事の両立がしやすいといいます。日本では、チームで働くため、早く帰ると周りに迷惑がかかってしまうと懸念し、帰宅をためらう人が多い現状があります。

また、育休をとる人が増えると、代替要員が来ない限り、周りの独身者や子育てを終えた人などの負担が増すことになり、そうした人たちは「自分は長時間労働をしているのに、子どもが小さい人ばかり休んだり、早く帰ったりして、その分の仕事をなぜ自分がやらされるのか」など不満を抱くことにつながります。

よって、男性育休を推進する企業事例で取り上げたように、会社全体の残業時間を減らすなど、周りの人の労働環境を整えることも重要です。

ソフトウェア開発会社のサイボウズは、産休・育休制度はもちろん、そのほかに「働き方宣言制度」「育自分休暇制度」などの制度を導入しています。これらは全社員が対象で、たとえば「働き方宣言制度」は育児や介護に限らず、複業など個人の事情に応じて、勤務時間や場所を決めることができます。

「育自分休暇制度」は最長6年の間、復帰が確約された状態で会社を辞めることができ、別の分野や海外への長期渡航など、新しいことに取り組むメンバーに「またチームに戻れる」という安心感を持ってもらうことが目的です。2012年から始まった制度で、これまで実際に10名が「出戻り」をしたということです。

サイボウズでは、こうして子どもを持たない人も、自由に休みを取ったり、勤務時間を選んだりしながら働ける環境をつくることで「不公平感」を抱かず、子どもを持つ人や自分が子どもを持つこと自体にポジティブになれるということです。子どもを持つ人も、そうでない人も幸福感を抱きながら、働くことが出来るようになることが重要だといえます。

■異次元の少子化対策は?

4月にはこども家庭庁が創設されますが、それより前、3月中に、岸田政権が掲げる「異次元の少子化対策」のたたき台が発表される予定です。これまでも少子化対策が行われてきましたが、成果が出たとは言えず、出生率は下がり続け、生まれる子どもの数は過去最少を更新しました。

家庭と仕事の両立を女性だけのものとせず、注目されることが比較的少なかった「男性」や「周りの人」に関する政策もすすめ、子どもを産む女性だけでなく、社会全体で「産み、育てる」環境作りが急がれます。

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