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「自分を責めて相談をためらう人が減るように…」自ら支援活動 性暴力を受けPTSDに…20代被害女性を支えたもの<後編>【こども・若者の性被害をなくそう】

2023年7月31日 18:00
「自分を責めて相談をためらう人が減るように…」自ら支援活動 性暴力を受けPTSDに…20代被害女性を支えたもの<後編>【こども・若者の性被害をなくそう】

ある20代女性は自宅に侵入した見知らぬ男によって性暴力を受けた。その瞬間、体の感覚がなくなったという。男は、女性の裸の動画を撮影し、「会社を知っている、誰かに言ったら動画を会社に流す」と脅した。女性は被害直後の1時間、何をしていたか記憶がない。その後、力を振り絞って、男の特徴や何が起きたかを必死に思い出して記録し、恐怖の中、その日のうちに病院へ。PTSDにも苦しんだ女性を支えたものとは?<後編>

■恐怖で体の感覚なくなった…が、すぐ受診、支援につながる

社会人1年目の夏、深夜に見知らぬ男が自宅に侵入し、性行為を強要される被害に遭った卜田素代香さん(20代)。男からは「体だけ貸してくれればいいよ」「会社を知っている、誰かに言ったら動画を会社に流す」などと脅され、殺されるかもしれないという恐怖で体は凍り付き、感覚がなくなった。男が立ち去って1時間半ほど、卜田さんは何をしたか記憶がないが、その後、性暴力の内容や男の特徴などをメモにして残し、家族やパートナーに被害を打ち明けて、その日のうちに家族とともに病院を受診。その後PTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断を受け、専門機関による治療やカウンセリングを受けながら、時間をかけて回復していった。卜田さんを襲った男は、その後、逮捕・起訴された。卜田さんは性被害を受けてからの数か月、警察での聴取や国選弁護士の選定など、これまでにない経験をし、新しく知ることばかりだったという。

■SNSに投稿されている性被害当事者の悲痛な声

『警察に行っても被害届を受け取ってもらえない…』

卜田さんはSNSに自身が受けた性暴力に対する思いなどを匿名で投稿していた。SNS上にはほかの性被害当事者たちの悲痛な声があった。

『誰にも話してません』『警察に行っても、被害届さえ受け取ってもらえない』『親とか友達とか身近な人に話したら、こんなひどいことを言われた』

当事者たちの投稿内容は、自分が置かれている状況とあまりにも違っていた。卜田さんは「果たしてどれだけの人が支援につながっているんだろう。自分のように支援を受けている人はすごく少ないのではないか」と考えたという。そして、「性被害がないのが一番だけど、被害に遭ってしまった人はちゃんと支援につながるべき」「私が性被害を受けてからの数か月でやってきたことや得た情報・知識を共有することが大事なのでは」という思いから、性被害に遭った人に向けて《その後の支援情報を発信する場所》を作ろうと思い立つ。

■性被害後の支援をしたい

卜田さんはWEB上に《性暴力被害からの回復に寄り添う情報サイト》THYME(タイム)を立ち上げた。自身の経験から性被害に遭ってしまった時にどのように行動するかや自身も発症したPTSDについてなど、様々な情報を発信している。今後は、性被害にあった後に病院や警察に持参できる『被害状況をまとめたメモ機能』 を作るほか、情報の発信だけでなく、当事者たちがそれぞれの『経験や情報、思いを共有できる場』を作りたいという。長期的には、性暴力に関する専門的な知識をもつ臨床心理士とのつながりを構築し、カウンセリングなど専門家が対応できる場を作っていけたらと話す。政府は7月26日に、こどもや若者の性被害防止のための「緊急対策パッケージ」をとりまとめ、性被害への社会の関心も高まっている。卜田さんはどのような社会を望んでいるのか。

■“性被害当事者だからわかるとは私は思いたくない、それぞれの痛みがある”

卜田さんが立ち上げたTHYMEは、《性暴力被害によって未来の選択肢を奪われない社会》というビジョンを掲げている。その思いは活動を始めた当初から現在まで変わっていない。性被害を完全になくすこと、性被害がなくなることが本当は一番。仮にそれらをなくすことが難しいとしても、被害に遭ったら“人生おしまい”ではなく、きちんと支援につながることができ、その人の意思や言葉が認められ、回復に向かっていける社会にしたいと、卜田さんは力強く話してくれた。

「性被害当事者だからわかる、みたいに思いたくない」と言う。性被害も1人1人の経験が異なる上、それぞれの痛みや経験を大事にして、そこからそれぞれのやり方やペースで回復していくことが望ましいと考えているからだ。また、被害に遭う立場の人にむけて「気をつけよう」と言うのではなく、「性暴力を許さない」というメッセージを発信し続けられる社会であることが重要だと話す。さらに、性加害の背景は複雑で、ストレスや支配欲もあるとして、ストレスへの適切な対応や性差別などについても考えてほしいという。

■ワークショップで当事者体験・・・大切な誰かが性被害にあったら?

卜田さんが最近始めた活動がある。性被害の当事者になったことを想定して、病院・警察や家族・友人など周囲の人に相談する経験をするワークショップだ。ワークショップでは、警察官役、病院関係者役などを決めて、当事者役は性被害に遭ったことを相談する。しかしその対応は良かったり、悪かったりで、全員が性被害について理解しているとは限らない、という今の社会の課題に気づいてもらうことを一つの目的としている。卜田さんはワークショップを通じて、「自分だったら周囲の人にどう対応してもらえたら安心できるのかを、考えるきっかけになるのでは?」と話す。身近な人から、性被害に遭ったことを相談された際、なんと言えばいいのか、どう対応したらいいのか分からないという人が多いと感じ、ワークショップで当事者の立場になる経験をしてもらおう、と考えた。「何かアドバイスをしようとしなくていい。アドバイスよりも、その人の話をきちんと受け止めることが何よりも大切。」だという。性被害について考え、話し合う中で、気持ちや対応を実感してもらえたらと卜田さんは話している。

THYMEは「知識はやさしさ」「情報の力で性差別と闘う」を掲げている。知識・情報をきっかけに、被害後『自分を責めて相談をためらう人』『誰にも相談できないと絶望する人』が少しでも減り、支援につながることができるように。情報をみてくれた人が、自分自身や、近くにいる誰かに寄り添うことができるように。卜田さんは性暴力被害の当事者、さらには社会全体で正しい情報や知識が共有されることを目指して、THYMEの活動を続けていくという。

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