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テレビ岩手が映画化 震災から10年の軌跡

2021年5月26日 18:59
テレビ岩手が映画化 震災から10年の軌跡

東日本大震災から10年。地震直後から被災地・岩手を撮り続けた地元テレビ局が、ドキュメンタリー映画を製作しました。自然の脅威に立ちすくむ人々、励まし合いながら生きてきた軌跡。映画の形だからこそ伝えられる「10年」について、監督にその思いを聞きました。

■「沈まない」思いを映画に

東日本大震災から10年の今年、岩手県で被災地の取材を続けてきたテレビ岩手が、「いわての復興」を刻んだドキュメンタリー映画を製作しました。タイトルは『たゆたえども沈まず』。フランス・パリの紋章にも刻まれている言葉で、ラテン語で「波に襲われて揺れ動いても、決して沈まない」という意味です。

これまでにテレビ岩手と系列のNNN取材団が撮影した映像テープは、約3000本。再生時間にして1850時間に及びます。その中から、発災直後の光景や徐々に変化する町並み、大切なものを失って苦悩しながら必死に生きてきた人々の10年間をひとつひとつ丁寧に集めて、繋ぎました。

■テレビではなく映画だから伝えられること

監督は、テレビ岩手のシニア報道主幹、遠藤隆さん。震災当時は報道部長として、取材や放送の指揮を執っていました。遠藤さんは津波被害を伝える難しさを痛感していました。地震発生の当初は津波の映像を放送していましたが、次第に遺族などへの配慮から控えるようになっていたのです。

「ただ月日がたつにつれ、私の頭には2004年に見たインドネシア・スマトラ沖地震の大津波映像がよぎるようになったのです。あの時の映像は、大津波がテレビで流れた初めてのことだったと思います」

当時見た津波映像の巨大さや恐ろしさ――遠藤さんはその衝撃が、その後の震災報道への思いを支えていたことに気づきました。だからこそ、東日本大震災でも何が起きたかを映像で伝えたかったのです。

「テレビという一過性のメディアではなく、映画という記録性を持った媒体の形で東日本大震災や津波の恐ろしさを後世に残す。それによって未来の被害を減らしたい…そのことを一番に心がけました」

■「今、ふたたびのビデオレターを」 

映画の冒頭は、地震のわずか数時間前に撮影された大船渡市の海沿いの映像から始まります。青空の下、ベランダには洗濯物が干されている民家も映っています。しかしその後、映像は地震発生直後のテレビ岩手社内に変わり、その後は逃げる人々、泣き始める児童ら、避難所でぼうぜんとする人々が映し出されます。一夜明けて、カメラは変わり果ててしまった町の中へ入りました。未曽有の被害の記録が始まったのです。 

テレビ岩手には県の内外から電話が殺到しました。「現地の家族と連絡が取れない。安否はテレビ局でわからないか」「自分は無事だったが、家族がどこに避難しているかわからない」……。

そこで取材班は避難所を訪ね歩いて、希望する人の「ビデオレター」を撮影し、連日、テレビで放送し続けました。自分の安否や知り合いへの伝言、遠くに住む大切な人へのメッセージを放送し続け、その数は約950人分にも上りました。

■「今も海が見える高台でやってます」

今回の映画では、テレビ岩手の記者が当時の映像を頼りに、消息を尋ねて回ります。正確な名前も住所も分からない中で捜索は難航しますが、最終的に9人に再会し、ふたたびビデオレターを撮ることができました。

理髪店を営んでいた金野千恵子さんも10年前、「ビデオレター」で常連客の安否を心配していました。今年、陸前高田市の海が見える高台で、ほほえみながらマイクを持つ金野さん。傍らには赤・白・青の線が回るポールサインも見えます。

「『海のそばは嫌になったんでないの?』って、みんなに言われますけども、今も海が見える高台でやってます。ここから見える海は、大好きです」

■岩手県から公開 東京でも上映予定 

さらに映画では、震災からわずか5日後に運転を再開した三陸鉄道の決意や思い、テレビ岩手報道部が約60か所で続けている定点観測の映像も紹介されています。

映画は今年3月から岩手県内で公開が始まりました。監督の遠藤さんは「被害が大きかった沿岸部の方々がどう受け止めるか、心配だった」と明かします。

「とても緊張した上映でしたが、見てくださった方が『よく作ってくれた』と言って私の手を握ってくれたのが印象的でした。津波にのみ込まれた女性も、この映画で初めて津波の姿を見ることができたそうで、『貴重な経験だった』と言ってくださいました」

映画は他の被災県や名古屋でも公開され、東京では5月29日から3週間、中野区の映画館「ポレポレ東中野」で上映される予定です。

近年も各地で地震や自然災害が頻発する中、目線の近さを感じさせる映像でつづった10年の記録は、東日本大震災は過去の出来事ではなく、今の私たちに繋がる存在であることを伝えています。この映画の収益金は、その全額が「いわての学び希望基金」に寄付されるということです。


映画『たゆたえども沈まず』
企画・製作 テレビ岩手
2021年5月29日から「ポレポレ東中野」(東京・中野区)で公開予定
(C)2021テレビ岩手