一度に大量の雪が降る「ドカ雪」温暖化で北陸での発生頻度5倍に 気温上昇でなぜ?
2023年は異常な暑さが世界を襲い「地球沸騰の時代が到来」と強い危機感が示されるほどだった。日本も猛暑日が続出し、史上最も暑い年になることがほぼ確実に。そんな中、冬の「ドカ雪」の発生頻度が温暖化で5倍も増加するという研究結果が明らかになった。
(社会部 内藤ミカ)
■ドカ雪で毎年立ち往生が発生
近年、日本海側を中心に災害を伴う「ドカ雪」がたびたび発生している。2022年12月には日本付近に強い寒気が流れ込んだ影響で記録的な大雪となり、新潟県では車の立ち往生が発生するなど、各地で被害が相次いだ。
■“地球沸騰”で記録破りの2023年
2023年の夏は猛暑日が続出し、10月に入っても真夏日を記録するところがあった。このため、年の平均気温は統計開始以来、過去最高を記録する見込みで、“史上最も暑い年”になることはほぼ確実だ。
■気温上昇でも北陸でドカ雪増加
気象庁は、記録的な暑さとなった背景には、地球温暖化の進行がベースにあるとした上で、ラニーニャ現象の影響が残っていたと分析している。その一方で、冬には短時間に降る極端な大雪、いわゆる「ドカ雪」の発生頻度が増加するという研究結果がまとまった。地球温暖化が大雪にどの程度影響するのか、気象庁気象研究所の川瀬宏明主任研究官らチームの調べによるものだ。
2021年~2022年の冬季を対象に、世界全体の海水温の分布をもとに大気の流れをシミュレーションし、「温暖化が進行した場合」と、「温暖化しなかった場合」を仮定して、100通りの計算を行ったところ、温暖化の進行にともない、全国的に冬の総降雪量が減少していたことがわかったという。
しかし、「ドカ雪」は、北陸の内陸部と北海道で増加するという分析結果が出たのだ。特に、北陸地方では、「10年に一度の割合でおこる大雪」(52.1ミリ/日)の発生確率が、温暖化しなかった場合には「20.4年に一度」だったのに対し、温暖化が進行した場合には「4.1年に一度」と、温暖化でドカ雪が約5倍もおこりやすくなるという。
こうした結果となった要因のひとつとして、川瀬主任研究官は、温暖化によって日本海の海面水温が上昇したことをあげている。海面水温が上昇することで海からのぼる水蒸気量が増加し、雪雲をより発達させるのだ。
■大雪招く「線状降雪帯」JPCZ
さらに、この水蒸気量の増加は大雪をもたらすJPCZ=日本海寒帯気団収束帯にも影響を与える。水蒸気がJPCZを強化することで、北陸地方の標高500メートル以上では降雪量の増加をもたらしていると考えられるという。
このJPCZは、大陸から吹く冷たい風が朝鮮半島の北側にある高い山でいったん2つに分かれた後、日本海で再び合流した時に発生。長さ数百キロメートルにおよぶ帯状の雪雲は、日本海側を中心に、短時間に大量の雪を降らせるため、「線状降雪帯」とも呼ばれている。
こうしたことから、温暖化で気温が上昇し雪が雨に変化することで、冬のシーズンを通した総降雪量は全国的に減少するものの、短時間に大量に降る「ドカ雪」の頻度が増える可能性があるのだ。
川瀬主任研究官は「温暖化進行で近年は極端な現象が増えている。しかし、それらの現象は突然襲ってくるわけではなく数日前にある程度予測できるため、最新の気象情報を確認し、備えることが大切だ」と話している。
■増加するドカ雪から命を守る
「ドカ雪」の危険から身を守るためには、どのようなことに気をつけるべきなのか。
雪氷被害を防ぐことを目的に、雪の観測・研究を行う防災科学技術研究所 雪氷防災研究センターの中村一樹センター長に話を聞いた。
中村さんが注目しているのは日本の雪質の変化だ。一般的に雪は、雪質によって重さが異なる。降り積もったばかりの新雪の重さは1立方メートルあたり50~150キロ。新たに降ってきた雪の重みで固くしまった「しまり雪」は150~500キロ。一度解けた雪などの水を含んだ氷粒のような雪は300~500キロにもなるといわれている。
■雪質が変化…湿った重い雪に
近年は温暖化による気温上昇で、日本では、水分を多く含んだ重い「湿り雪」が降る地域が増加し、乾いた雪は減少しているという。
重い雪は、様々な災害をもたらす。除雪が困難となり孤立状態に陥ったり、着雪によって鉄塔が倒壊して停電、倒木で道路を塞いでしまったりなど、毎年被害が相次いでいる。
特に、雪国では、屋根の雪下ろしをはじめとする除雪作業が必要不可欠となるが、命の危険と隣り合わせで、雪下ろし中の転落事故はあとを絶たない。
事故を軽減するため、防災科学技術研究所では新潟大学や秋田大学などと共同で、雪下ろしの適切なタイミングがわかる「雪おろシグナル」というシステムを開発した。
これは、雪が積もり始めてからの気象データ(気温や風向など)から、積もった雪の内部における雪質や密度などを計算し、積もった雪の「重さ」と「危険度」を色別で可視化したもの。雪下ろしの目安となっているのが黄色で、重さは1平方メートルあたり300キロから500キロ、積雪深は1メートル以上で表示される。また、最後に雪下ろしを実施した日から現在までに降り積もった雪の重さを計算することも可能で、自分がいる場所のリアルタイムの雪の重さを知ることができるという。
■ドカ雪×湿った雪で「これまでの経験は通用しない」
中村センター長によると、屋根に積もった雪は見た目が同じでも、重さが同じとは限らないため、適切なタイミングで雪下ろしを行う判断は難しいという。必要以上の雪下ろしは事故の可能性を高め、雪下ろしが遅くなれば家屋倒壊の危険性が高まるおそれがある。
温暖化進行に伴いドカ雪が増加し、その上、水分を多く含んだ重い雪へと雪質が変わっているいま、中村センター長は「豪雪地帯で雪に慣れた人でもこれまでの経験が通用しない可能性がある。危険なリスクを背負った雪下ろしの作業の頻度を減らしたい」と話す。そして、ドカ雪から身を守る一番の方法は「頑丈な家の中にいること」だという。数日間は外に出られないことを想定し、食料や水の確保、停電に備えて灯油ストーブやカセットコンロを準備しておく。何より重要なのは、スマホなど情報を得る手段を絶やさないこと。最新の気象状況を確認してほしいと呼びかけている。