“盛り土”元社員が証言する“ずさん工事”
19人が亡くなり10人の行方がわかっていない静岡県熱海市の土石流災害。崩落した土砂はほとんど盛り土だったとされています。盛り土をした業者の複数の元社員への取材で、この会社が熱海で行ってきたずさんな工事の数々が浮かび上がってきました。
■“盛り土”の工事を申請したA社…過去にも崩れた現場が
行方不明者の捜索が続く静岡・熱海市では、大量の土砂がいまだ残っています。被害を甚大なものにしたのが、人工的に積まれた“盛り土”です。
神奈川・小田原市に本社を置くA社。22年前に設立された不動産管理会社です。2007年、静岡県に盛り土の工事を申請したA社は、その後、熱海市内で複数の開発工事を行っていたことがわかりました。
A社元社員・山田氏(仮名)「同じことやってるなと思いましたよ。ひどい、本当にひどい」
NNNの取材に応じた元社員の山田氏は、過去にも土砂を運び込み、崩れた現場があると指摘します。
A社元社員・山田氏(仮名)「土砂が崩れてきて、道路の際きわまで来ている。土砂を搬入しようと許可は取っているんですけど、数倍のものがここに入ったと」
今回の崩落現場からおよそ9キロの地点では、4年前に工事が始まったといいます。当時の標識にはA社の名前があります。許可が下りたのは2017年1月で、目的は「植林のための地質改良」となっています。
■住民たちが大量の土を捨てるトラックを目撃
NNNは先週、現場へと向かいました。斜面がえぐれ、木はなぎ倒されたまま。大きく傾いて橋にかかっている木もあります。
当時を知る住民「泥を捨てた、ブルドーザーで押している。だから木が自然に倒れてくる」
住民たちは、トラックが大量の土を捨てるのを目撃していました。やがて、異変が。
当時を知る住民「川が汚れてきているから。水が泥だらけになっている」
土が流れ出し、下流の川の水が濁ったのです。
今月、撮影された標識の写真を見ると、標識の左側に、2017年4月、静岡県が工事の中止を命じた「命令書」が貼られているのがわかります。許可が下りて、わずか3か月後の中止命令──。
A社の開発をめぐっては、2012年にも熱海市内の現場で土砂崩れが発生。土砂は墓地の中にまで流れ込みました。
■“崩落した盛り土には産業廃棄物が捨てられていた”
過去にもたびたび起きていた土砂の崩落。元社員・山田氏は、今回崩落した盛り土について、産業廃棄物が捨てられていたと証言。
A社元社員・山田氏(仮名)「プラスチックの破片とか木くず・タイヤ、うわさによるとトラックも埋めてあると」
その出所も熱海市内でした。
A社元社員・山田氏(仮名)「(ある会社の)社員寮が4棟か3棟建っていた。それを解体した解体ガラ、一気に伊豆山に持ってきたと思います」
解体工事が行われた地区に行ってみると……
住民「車がぼこぼこになっちゃった、がれきが崩れてきて」
■開発工事に“別の目的”…行政相手に強引な手法も
熱海市内で見えてきた、A社の数々のトラブル。もう1人の元社員は、開発工事には“別の目的”があったと指摘します。
A社元社員・斉藤氏(仮名)「目的は客土(残土)っていうか、泥を受け入れ谷を埋めて、利益を出すのが一番の目的。なかなか泥の捨て場がなくてですね、(残土を)迎え入れれば10トンダンプでいくらかな、何千円っていう話になる。100台1000台って話になれば、一つの穴や谷があれば莫大(ばくだい)な利益になる」
行政相手の強引な手法についても明かしました。
A社元社員・斉藤氏(仮名)「山の中に入って斜面に入って造成を勝手にしてしまう。行政には後から指導を受けて、ちょちょっと手直しして許可を得てしまう。既成事実の中で許可を下ろさせていく」
かつて熱海市でA社を担当した職員は……
──『言うことをきいて』と言っても『いいよ』と言う人間じゃない。『お前らの言うことはきく必要がない』とか言われちゃうからね。『やめてください』ということは伝えるが、それ以上はできないから、県に報告書を上げて指導してもらう。
NNNはA社の代表に質問状を送りましたが、回答は得られていません。