「元夫がまた入り込んでくるのでは・・・“共同親権”法案どうなる #みんなのギモン」
日本テレビの情報提供サイトにこのような投稿がありました。「あの元夫がまた家に入り込んでくるかと思うと怖いです」。投稿者は、夫からの言葉の暴力に悩んだ末に離婚した女性。今の国会で審議入りした民法の改正案の行方を心配していました。夫婦が離婚した後、父と母の双方が子どもの親権を持つ「共同親権」の一部導入を柱とし、明治時代から続く制度を大きく変えるものです。
2人で育てるのが無理だから離れたのに・・・。そんな思いに法案はどう答えるのでしょうか。
(報道局 調査報道班 小野 高弘)
■「離婚後も2人で子育て」
子どもの世話や教育、住む場所の決定、財産管理などを行う親の権利義務が「親権」ですが、離婚した場合、父と母のどちらか一方しか親権を持つことはできません。この単独親権は明治時代に民法が施行された時から続いてきました。
それを大きく変えるのが今の国会で審議中の民法改正案で、父母が協議して共同親権か単独親権のどちらかを選べるようにするものです。双方が合意できない場合は、家庭裁判所が親子の関係などを考慮して親権者を決めるとしています。
共同親権を認めると、離婚後に子どもの養育責任が両方の親にあるため、一方の親が負担を1人で負うことなく子育てができるようになるほか、子どもとの面会交流が行いやすくなり、養育費不払いの改善も期待できるなどのメリットが考えられます。未成年の子がいる夫婦の離婚が年間約10万件にのぼる中、政府は「子の利益を守る」ためのものだと位置づけています。
■「激しいモラハラから逃れたのに」
ただ問題は、離婚の原因が夫婦間の関係悪化やトラブルの場合です。不仲で離婚したのに子どもに関わるさまざまな場面で元パートナーの考えを聞かなくてはいけないのか、との心配の声もあがっています。
岐阜県に住む30代の女性はこう話します。
「4年前に離婚しました。2人の子の出産後に夫の言葉の暴力がひどくなりました。存在を否定され、子どもの前でもひどい言葉を浴びせられました。上の子が5才ぐらいになり言葉の意味がわかってきた時、悪影響になると思い、夫が仕事に出ている間に子どもたちを連れて実家の近くに逃げました。周りの人たちに助けてもらいながら今に至ります」
法案では、DVや虐待のおそれがあると裁判所が認めた場合、家庭裁判所は単独親権と定めなければならないとしています。DVについては「身体的」「精神的」両方が対象に含まれるとされています。けれど女性はこうも話します。
「元夫は共同親権を100%求めてきます。裁判所はその時どう判断するのでしょうか。元夫は外面はよくて素行的には裁判官が否定する根拠がないんです。私がいくら言葉の暴力があったと訴えても、DVを受けていたという証明にならないのではないでしょうか」
「今でもフラッシュバックがあります。これ以上元夫と関わりたくありません。対等な立場で話し合うことができないから離婚したのに、共同親権となって同意の判を条件に元夫から再び支配されるのではないかと心配でたまりません」
■「すべてに意見を・・・ゾッとする」
静岡県に住む30代の女性は、自身が中学3年の時に父親と母親が離婚しました。当時、父親のDVについて周囲に相談できなかったとの思いを持っています。
「父親は酒を飲み、母への暴力が絶えませんでした。私たち子どもは3人姉妹でしたが、母をかばおうとすると父はよけいに暴れました。体のあざはそんなに痕が残らないんです。警察に行くとそのあとが怖いんです。痕がないことで警察が何もしてくれなかったら、父からどんな報復がされるかと思って、結局当時、相談できませんでした」
「私は母の実家に逃げて父とは関わらずに大学まで行けましたが、進学先などの大事なことを決めるにあたって、あれらがすべて父親の意見を聞かなければいけなかったと思うとぞっとします」
法相の諮問機関・法制審議会の委員で「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長の赤石千衣子さんはこう話します。
「裁判所が共同親権と判断すれば、別れた夫婦が強制的に話し合い子どもの進学や医療など共同で決めることになります。子どもは安心できる環境で暮らしたいのに、両親が対立的な場合、もめごとの中に置かれ続けることになります。子どものためになりません」
「裁判所が本当に客観的に審理することができるのかも疑問です。共同親権を法制化するなら、父母双方が真摯に合意したケースであることに加え、同時に面会交流を支援したり、親子が相談したりできるサポートセンターを整備すべきです」
■裁判所は担えるか?
また、裁判所への申し立てが増えることが予想されますが、家庭裁判所は対応できるのでしょうか?
最高裁によると、全国の家庭裁判所が扱った子の監護に関する調停や審理の件数は年々増え、2020年は合わせて5098件でした。審理期間も長くなる傾向にあり、2020年は平均8か月ほどでした。離婚後の共同親権が導入されれば家庭裁判所の負担はさらに増えることが予想されます。
日本弁護士連合会は、家事事件が大幅に増えているのに裁判官は十分に増えていないうえ、調査官の絶対的な人数が足りず、調査に十分な時間や手間をかけられていないとして、改善や充実を求める声明をたびたび発表しています。
では世界の国を見てみると・・・。離婚後の共同親権を認めていない国は少数派です。
法務省の調査によると、G20(主要20カ国)を含む24か国のうち、インドとトルコは単独親権のみを認め、その他の国は単独親権に加えて共同親権も認めています。
ただその制度はさまざまで、①裁判所の判断などがない限り原則として共同親権とする国 ②父母の協議により単独親権とすることもできるとする国 ③共同で親権を行使することはまれであるとされる国の例があり、イギリスと南アフリカでは,父母のいずれもがそれぞれの親権を単独で行使することができるといいます。
ほとんどの国に共通するのは、父母の教育やカウンセリング、面会交流が適切に行われるよう監督する機関の設置など、支援制度があるということです。
日本では、離婚後に子どもと疎遠になりもっと関わりたいと思っている親たちを中心に、諸外国と同様の共同親権の導入を望む声があります。別居している親が養育に関われば、子どもをより助けられるようになり、同居する親の負担を軽くできるとの考えです。
一方で欧米のような仕組みがそのまま日本の社会になじむのか疑問視する意見もあり、ある母親は「女性が子育てをするのが当然のようになっている日本の社会で、結局、男性に子育ての“いいとこ取り”を保証するようなものではないか」と話します。
法案が今国会で成立すれば2026年度ごろを目処に新制度が始まる見通しです。
父と母が疎遠になっても子どもにとっては大事な親。自分を大事にしてくれる親にもっと会って話し相手にもなってほしいという子どもも大勢います。そうした子どもたちの気持ちに答えると同時に、弱い立場にある親や子どもたちの不安を招くことのないよう、国会で審議を尽くす必要があります。
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#みんなのギモン
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