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【自民党総裁選】少子化対策は?京大の柴田教授にきく

2024年9月25日 17:36
【自民党総裁選】少子化対策は?京大の柴田教授にきく

自民党の総裁選では、少子化対策について、どう論じられているのか。少子化対策や子育て支援策について国の内外の論文などをもとに分析し、国会などでも提言してきた京都大学大学院の柴田悠教授にききました。

■各候補者の少子化対策をみてみると

柴田教授)石破さんと高市さんは、成長産業への政府投資による経済成長、それにより、若者の所得を増やし、少子化対策になるという考えは共通していて、それ以外の部分で違いがあります。

石破さんは給食や国立大学・高専の無償化と女性負担の軽減をめざしています。女性の家事・育児の負担の大きさや、その裏にある男性がなかなか家庭の時間を持てないこと、地方での女性差別など、時間的・身体的な負担だけでなく、差別も含めて改善が必要だと、多角的に少子化の要因を検討されています。生産性を上げて労働時間を減らすことや、家事育児介護のアウトソーシング支援も掲げています。高市さんも、ベビーシッターを含む家事支援サービスを国家資格化して税控除することで、女性の負担の軽減をめざしています。また、学校給食の無償化も掲げていますが、石破さんや加藤さん、上川さんといったほかの候補もこれをあげています。加藤さんは出産費やこども医療費の無償化や、保育士・教員の処遇改善、保育・学童保育の充実、高等教育の給付型奨学金拡充など、幅広い少子化対策を掲げています。教員の処遇改善は小林さんも掲げ、上川さんは病児・延長保育を掲げています。

小泉さんは、成長分野への労働者の移動を加速度的に活性化させて経済のダイナミズムを取り戻すことで、若者の実質賃金を増やし将来への不安を解消していくことを掲げていて、これが少子化対策につながるという考え方のようです。労働移動を活性化させるために、企業に退職者へのリスキリングと生活支援・再就職支援を義務づける方向で、解雇規制を見直すと発言されています。また、全体的な残業時間を減らしていくという安倍政権からの働き方改革を進めながら、少数のもっと働きたい人には選択肢を作るとも発言されています。最低賃金を引き上げた上での「年収の壁」の撤廃や、同一労働同一賃金による非正規雇用の賃金改善も掲げていて、これらも少子化対策につながるでしょう。

──小泉さんが掲げる解雇規制の見直しや労働時間規制の見直しなどは、青天井で働かされるのかといった懸念もあります。

柴田教授)たしかに出馬当初はそれらの「見直し」が「緩和」の方向性のみを意味すると解釈されがちで、私も当初そのように懸念していました。しかし、その後小泉さんは、全体的な残業時間を減らしていくという安倍政権からの働き方改革はひき続き進めていくとメディアでおっしゃってますね。

他方で、より長時間働きたいという人も少数ながらいるので、労働時間規制の進め方や見直しについては一年間以上かけて専門家に検討してもらうと発言しています。

■残業を減らし男性も家事育児を担うことが少子化対策につながる

柴田教授)私としては、少子化対策として根本的には働き方改革が重要だとずっと提言しています。具体的には残業の割増賃金率を高めて、残業させにくくする。男性がより短時間で働き、家事育児を担えるようになれば、女性の家事育児負担が減り、女性にとっても結婚や出産のハードルが下がるでしょう。残業の割増賃金率は、アメリカや多くの欧州諸国では50%ですが、日本では基本的に(月60時間以下の時間外労働については)25%ですので、段階的にでも50%に引き上げるべきです。

あとは「11時間の勤務間インターバル」(終業から次の始業まで11時間の休息時間を設ける)を段階的に義務化したり、いずれは法定労働時間を段階的に短縮することも検討すべきでしょう。仮に、もっと長時間働く選択肢もつくるなら、これらの残業割増率の引き上げなどをしっかり進めた上で、たとえば、すでにある「高度プロフェッショナル制度」の年収要件は今1075万円以上で対象者は1340人ですが、その年収要件をもう少し引き下げて対象を広げるとか、裁量労働制の対象業務が今年4月に増えましたがさらに増やしていく、などの案が考えられるかと思います。

基本的にほとんどの人は、年収が減らないのであれば、残業時間を減らして自由時間を増やしたいと願っています。残業割増率が上がれば、より短い残業で同じ年収を得られるようになるので、労働者にとってもありがたいでしょう。

少子化対策としても働き方改革、とりわけ男性の労働時間を減らすことが重要ですが、石破さんや小泉さんや加藤さんといったごく一部の候補者しかそれを主張していません。そこは残念だなと思います。

■正規雇用男性の労働時間を1日2時間減らすと出生率が0.35上昇との試算が

柴田教授)最近、私自身の分析として、どのぐらい労働時間を減らしたら、出生率がどのぐらい上がるのかを細かく試算しました。日本で長時間働いているのは正規雇用の男性で、平日の1日平均で10時間。一方、先進諸国で男性のフルタイム労働者の労働時間が最も短いのはデンマークやオランダ、ドイツなどで平日1日8時間ぐらい。

では、仮に10年間かけて日本の正規雇用男性の労働時間を平日1日2時間減らすと、10年後の出生率がどうなるかと試算すると、 0.35 上がるという結果になりました。

そもそも政府の「加速化プラン」の実施で出生率が 0.1 上がるという試算は以前から申し上げています。そして今後10年間で若者の賃上げが大幅に実現すると出生率は0.2上がると政府の資料で試算されています。それらが反映されても2035年時点の出生率は1.3ぐらいでしょう。

一方、希望出生率={既婚者割合×夫婦の予定子ども数 + 未婚者割合 × 未婚結婚希望割合 × 希望子ども数}×離別等効果は現在1.6ですから、加速化プランと賃上げが実施されても、まだ0.3希望出生率には届かない。そこで今後10年かけて、正規雇用男性の労働時間を1日2時間減らすと、出生率は 0.3ぐらい上がって2035年に希望出生率 1.6 が実現されるという試算になります。DX や AI などを活用し、生産性を上げることで労働時間を減らしていく。残業割増率を50%に引き上げることで残業の経営コストを高くし、「残業しない人のほうが生産性が高くて偉い」という認識を広げる。欧米ではすでにそうなっています。

■給食無償化の効果は?

──学校給食無償化を複数の候補者が掲げています。仮に年収制限なしで小・中学校で実施すると約5000億円かかると推計されていますが、効果はどうでしょうか、

柴田教授)東大の山口慎太郎先生がよくおっしゃっていますが、しっかりと栄養を確保するなど、こどもの育ちの保障という意味で重要です。他方で、少子化対策として効果があるかはおそらく研究がなくて、出生率がどのぐらい上がるのかは推計が難しい。おそらくあまり大きくは上がらないのではと思います。

──先生も前からおっしゃっていますが、保育の質向上が必要との声も、子育て支援団体などからあがっています

柴田教授) 保育の質を考える上で、いろいろな研究はありますけれども、配置基準は非常に重要です。いくら保育士のスキルが高くても、配置基準が劣悪だと保育の質が下がってしまう。加速化プランでは75年ぶりに配置基準を改善したので、それは評価したいですが、まだ道半ばですね。4,5歳児クラスで保育士1人に子ども30人だったのが25人になりましたが、先進国平均が18人なのでまだまだ改善の余地があります。保育の質を改善することで子どもの育ちの保障にもつながり、安心して預けられる。

ただ、出生率引き上げ効果があるかは研究がない。保育の「定員」が増えると出生率が上がるのは、いろんな研究でわかっていますが、「質」の出生率引き上げ効果は分かっていません。

■大学無償化は少子化に効果があるのか

──大学など高等教育の無償化は2025年度からさらに拡充されますが、対象は「扶養する子が3人以上の世帯」と限定的です。20代,30 代の人たちは奨学金の負担が非常に苦しいと言いますが、無償化による少子化対策への効果は?

柴田教授)高等教育の無償化に関しては、私独自の分析で、高等教育の学費負担を軽減していくと出生率が上がる傾向は見えています。加速化プランに盛り込まれた「高等教育の無償化」は2600億円ですから、それによる出生率の上昇は 0.01くらいと予測できます。今後も無償化の対象をもっと広げていくことで、結婚や出産のハードルは下がると思います。希望通りの数の子供を持たない理由の第1位が教育費ですし。

ただし、大学進学などは産んでから約20年後の話なので、無償化をしたとしても、若者の将来不安が解消されないかぎりは、結婚や出産のハードルを下げる効果は小さいかもしれません。

■総労働時間を減らす必要は?

──残業の割増賃金率を上げるだけでなく、労働時間の上限を将来的に減らしていくのはいかがでしょうか

柴田教授)将来的には視野に入れるべきだと思います。アメリカは労働時間の上限がないですが、ヨーロッパは労働時間の上限が厳しい上に、11時間の勤務間インターバルも義務化されています。フランスは法定労働時間が週35時間で、日本もゆくゆくは法定労働時間を35時間ぐらいにまで段階的に短縮していくことが、生産性を高める上でも、幸せに生きやすくしていく上でも、少子化傾向を緩和していく上でも、理想的だと思います。

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