「夏の競技になってしまう」スキージャンプ・高梨沙羅が抱いた危機感
「普段感じることのできない自然のよさとか、五感で感じてもらいたいなと思います」と笑顔を見せました。
この日開催されたのは、蔵王山を歩いて、山の美しさを感じながら、自然を守るためにごみ拾いなどのクリーン活動を行う「トレッキング&クリーンアクション in 蔵王」。約100人が参加し、清掃活動をおこないました。
高梨選手は2018年の平昌五輪で銅メダルを獲得。W杯では、歴代最多となる通算63勝をあげているスキージャンプ界のエースです。
そんな高梨選手が6月の山で清掃活動をおこなうのには、世界を転戦しているからこそ感じる、危機感がありました。
豪雪地帯、北海道・上川町にうまれ、8歳からスキージャンプを始めた高梨選手。幼い頃から触れてきた雪は、人生の一部です。
4年前、生活の拠点をジャンプの強豪国・スロベニアに。さらに強くなるための決断でした。しかし、そこで驚きの光景を目にします。
高梨選手が見せてくれたのは、今年3月に撮影した、ジャンプ台の写真。
「いわゆる人工雪でつくったジャンプ台なんですけど、ジャンプ台にしか雪がなくて、周りに芝が見えている」
シーズンまっただ中にもかかわらず、雪不足により自然の雪が足りず、大会で使用するジャンプ台のほとんどが人工雪のものだといいます。
さらに、「(雪を)試合の前までためておいて、試合直前にバッと張るような感じで、なんとか試合ができている」と焦りを口にしました。
実はいま、雪不足は世界中で深刻な問題になっています。気候変動により20世紀半ば以降、北半球の積雪面積は減少。日本でも、各地でスキー場の閉鎖が相次ぎ、雪祭りなどのイベントも中止となっています。
「雪不足で試合がキャンセル(中止)になってしまったり、延期になってしまうということが年々増えてきている。夏の競技になってしまうんじゃないかっていう、危機感も感じながらスキージャンプをやっている」と話した高梨選手。
「雪に育てられた以上は、子供たちにも雪のよさを知ってもらいたいですし、後世にそれを残せないっていうのは、すごく悲しいことなんですよね。なので、守っていきたい」
かけがえのない雪を守るため、去年5月に「JUMP for The Earth PROJECT」というプロジェクトを立ち上げました。
その活動として、去年10月には「スポーツイベントでできること」をテーマに高校生を対象にワークショップを実施。実際に大会で取り入れられる、地球環境に優しいアイデアを考えました。
今年1月の札幌W杯では、マイボトルを持参した観客に無料で温かいドリンクを提供する「マイボトルバー」を設置。ワークショップで多く出たアイデアを形にしてもので、ペットボトルの削減や環境問題に関心を持ってもらいたい、という思いを込めました。
さらに行政と協力し、自然に触れながらゴミ拾いをする活動や、イベントでの積極的な発信、SNSでの呼びかけなどもおこなっています。
「一番大事にしていることが、知ることから始めるっていうところなんですね。行動を継続するって、自分の感情が動かないとできないことじゃないですか」
大好きなスキージャンプを守りたいという思いが、高梨選手を突き動かしていました。
活動に参加した人たちからは、「沙羅選手が特に肌で感じていらっしゃると思うので、そういう人たちから伝わるメッセージって大きいと思います」「私たちも少しでも、微力ですが力になれればと思います」といった声が。
さらに、スキージャンプ界のレジェンド・葛西紀明選手は、「口に出して行動っていうのが大事になってくるし、すごく勇気のあることだったんじゃないかなと思います」とたたえています。
「何でジャンプをやっているかって言われたときに、自分にしかできないことで社会のためになれるなら頑張っていきたいなと思う」と話した高梨選手。
「50年後も100年後も同じように雪の中で、この冬季スポーツができる環境はなくしたくないし、守りたいなと思っています」と力を込めました。
今後も高梨選手は各地で、自然環境について考えるイベントなどをおこなっていく予定です。