羽生結弦“卒論”終え コロナ禍の現在地
「勉強してました。ひたすら」──。フィギュアスケートの羽生結弦選手(25)はそう振り返ります。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、金メダリストはどんな思いを抱いているのか。“コロナ禍の今”について語りました。
■突然のシーズン中止「逆にホッとした」
今月13日。新型コロナウイルスの感染拡大が続く“今”について、羽生結弦選手は。
「不思議だなって思っている。自分の中で。これから世の中が変わっていくのかな、その変わり方がどういう風に変わるのかなとか」
世界を変えた新型コロナウイルスのパンデミック。羽生選手が感染拡大を実感したのは今年2月。当時、集団感染が起きていた韓国で行われた試合でした。
「体温を測って(会場に)入ったり。みんなマスクをしないといけなかった」
試合直前までマスクをつけるのは初めてのこと。
「かなり重々しい空気もあった。これは本当に大変なことなんだなって、ずっと感じながら試合をやっていた」
去年は埼玉で行われた世界選手権は、今年は中止に。シーズンは突然、終わってしまいました。
「世界選手権がなくなったときはモチベーションの喪失感はあった。逆にホッとしたという気持ちもすごくあった。試合に出るのも怖かった、あの時は」
現在は感染対策に取り組む日々が続いています。
「できる限りのところでマスクをして、できる限りのところは全て消毒」
感染対策は練習中も。
「何をするにも、これ大丈夫かな、あれ大丈夫かなっていうのが常に脳裏にちらついている。練習にしっかり集中できないというのはある」
例えば、スケート靴はウイルスの多い床と接触しますが、練習の際は手入れが必要です。また、羽生選手はルーティーンでリンクに入る前にエッジケースをおでこにつけますが…。
「スケート入るときにエッジケース外しておでこにつける。ああいうのも結局、床に触れている。気をつけないといけないと思う。この状況下では怖いと思う」
■「勉強してました。ひたすら」卒論書き終え
一方、例年、6月には決まる新シーズンの出場試合もまだ正式発表はなく、不透明な状況です。
「(新シーズンが)本当に始まるのかな、始まらないのかなっていう気持ちもなくはない」
夏のアイスショーも軒並み中止。練習時間も削られる中、羽生選手が動いていたことがありました。
「勉強してました。ひたすら」
早稲田大学の通信課程で人間情報科学を専攻し、スケートと両立してきた羽生選手。卒業論文を書いていたといいます。
「フィギュアスケートにおいてモーションキャプチャ技術をどれだけ使えるか、どういう展望があるかをまとめた論文です」
羽生選手の卒業論文。3Dモーションキャプチャによるジャンプの研究です。自らの体に動きを記録するモーションキャプチャをつけ、実際にジャンプを跳びました。それをデジタル化。3回転半ジャンプ=トリプルアクセルの細かい動きがわかります。
世界トップの技術を持つ羽生選手ならではの研究で、将来的に選手の技術の向上やAI採点などスケート界の発展に役立てたいと願っています。
「練習する時間が少なくなってしまったからこそ、勉強にすごい集中できていて、自分の論文を完成させられたことが一番動いたことかなって思います」
■4回転アクセルへ「原点に返って」
卒業論文は7月末に書き終え、現在はスケートの練習に集中。世界初の4回転半ジャンプ、4回転アクセルの練習に取り組んでいるといいます。
「自分が一番いまスケートをやっていて、大事にしないといけないのは(4回転)アクセルだと思っている。ある意味この時間は原点に返って今まで自分が多くの先生に習ってきたことを考え直しながら練習できる時間にはなっている」
一方で感染拡大が続く現状について。
「医療の最前線でウイルスと闘っている方々、すごく大変だと常日頃感じている。雇用主の方々、本当に生きるためにどうしたらいいかって思いながら、でも雇っている方々をなんとか養わなければいけない。本当に苦しい世の中だと思う」
この状況で、自分にできることとは。
「パンデミック、第2波という状況と闘わないといけないのは、僕たち一般人が一番闘わないといけない。ウイルスをまずは自分に感染させない、広げないことが一番の皆さんへの応援。感染拡大につながる行動をしないという選択をしているだけで、僕たちは回復した未来に向かって動けていると思っている」
再び、人々の前でスケートができる未来へ。金メダリストは動き続けます。
「早く皆さんの前で思い切って少しの不安もなく、少しの心配もなく、自由に演技して自由に声を出して自由に笑える、自由に泣ける。そんな日が来ることを願っています」