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【競技担当が注目】陸上・110mハードル泉谷駿介 "世界一のインターバル"を武器に日本史上初の快挙へ

2024年8月4日 12:01
【競技担当が注目】陸上・110mハードル泉谷駿介 "世界一のインターバル"を武器に日本史上初の快挙へ
メダル獲得が期待される泉谷駿介選手(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
陸上・110mハードルで日本選手初の決勝進出、そしてその先のメダル獲得が期待されるのが、泉谷駿介選手です。トラック種目で個人でのメダル獲得となれば、1928年のアムステルダム五輪(女子800mで人見絹枝選手が銀メダル)以来、日本選手としては史上2人目の快挙となります。

男子のハードルの高さは、106.7センチ。これは、JR在来線の幅と同じです。110mを走る間に10台のハードルを越え、その速さを競います。これまで、"世界から一番遠い"とされてきた110mハードルですが、止まっていた時計の針が動き始めたのは2018年。のちに東京五輪代表となった金井大旺選手が14年ぶりに日本記録をマークすると、そこから高山峻野選手(東京・パリ五輪代表)、泉谷駿介選手(東京・パリ五輪代表)が立て続けに記録を更新し、去年6月に泉谷選手がマークした日本記録=13秒04は、東京五輪金メダリストと同タイムです。

このタイムのすごさを表す指標が、世界陸連が設定する「スコアリングテーブル」。種目ごとのパフォーマンスを公平に比較するため、記録を得点化しているもので、110mHにおける13秒04は、100mに換算すると、9秒88相当の評価となっています。

去年8月には、日本選手として初めて世界選手権・決勝の舞台へ挑み、メダルまで0.1秒の5位入賞という快挙を達成。泉谷選手を指導する、日本陸連の山崎一彦強化委員長は、「短距離ハードルは一番世界から遠い種目と言われていたが、一番世界から近い種目となっている」とし、重点的な強化が実りつつあると強調しています。

スポーツ万能で、高校時代は混成競技の「八種競技」でインターハイ優勝。順天堂大学に進学後は、ハードル種目と跳躍種目の走り幅跳び、三段跳びなどをメインに活躍する、自称"跳躍ハードラー"。そのなかで頭角を現したのがハードルでした。

110mハードルで日本の陸上界における第一人者となった今でも、"陸上競技全般が好き"という気持ちは健在。スプリント強化の一環として、100mのレースに出場することもあります。2022年、実業団の日本一を決める大会では、走り幅跳びに出場すると、東京五輪に走り幅跳び代表で出場した橋岡優輝選手(パリ五輪代表)らをおさえ、優勝。この大会、走り幅跳びで2連覇していて、自己ベストの8m10は国内トップレベルの実力です。跳躍種目で鍛えた、力強い踏み切りやバネのある走りは、ハードルにもいきているといいます。

身長175センチと、陸上選手としては小柄な泉谷選手。コロナ禍で開催された2021年の東京五輪、翌年の世界選手権は、外国の大きな選手らを相手に、勝負することができませんでした。それまで海外でのレース経験がほとんどなかったことも大きな要因。世界のトップ選手との差を感じ「気持ち的にも落ち込んだ」といいます。昨季以降は海外転戦を重ね、「自信がついた」ことで、体格の大きな海外選手ら相手に、物おじしない走りができるよう成長しました。

「(ハードルの)高さが自分の腰ぐらいあるのを、高く見えないように跳んでいくのが魅力」と語る泉谷選手。最大の武器は、ハードル間を細かく刻む、インターバルです。ハードル間の9.14mは3歩でいくのが主流で、いかにリズムよく、速いピッチで走るかが重要となります。小柄な泉谷選手はこのハードル間のインターバルの技術が非常に高く、指導する山崎コーチは、「世界一のインターバル」だと太鼓判を押します。

今年7月、パリ五輪と同じ会場で実施されたダイヤモンドリーグでは、ハードルに足をぶつけながらも、トップと0.01秒差の3位。そしてパリ五輪前最後の大会となった、日本での大会ではシーズンベストとなる13秒10をマーク。これは、東京五輪銅メダル相当の好タイムです。山崎コーチも、「今年のなかで一番いい調子。(ウエートトレーニングなどで)力がついた分、パワーもついて、加速や切り替えが力強い。外国人に近いような力も出せるようなところまできた」と評価しています。

「外国人がいようといまいと、自分のレースができる」と、3年前の不安も完全に払拭した泉谷選手。日本選手としては前人未到の12秒台にも期待が高まります。8月4日に予選、8日に準決勝、9日に決勝がおこなわれる男子110mハードル。「トップの海外選手と走って自分の力を出し切りたい」と話す泉谷選手が日本選手初の快挙となるか。世界を相手に勝負するハードリングにも注目です。