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海の上を走る!?自作の船で挑む「海上自転車競走」夢に向かって漕ぎ出した3人の高校生

2023年10月2日 19:58
海の上を走る!?自作の船で挑む「海上自転車競走」夢に向かって漕ぎ出した3人の高校生
今治市で行われた「海上自転車競走」

今治市で行われた、海の上を自転車のような船を漕いで速さを競う「海上自転車競走」。造船会社の社員など、船づくりのプロも参加するこの大会に自作の船で挑んだ3人の高校生。果たして結果は!?

9月24日、今治市の織田ヶ浜でとある大会が行われました。

「海上自転車競走」

その名の通り、海の上をフロート付き自転車で走りその速さを競うレースです。今治市の「サイクリング文化」と基幹産業のひとつ「造船業」を広く知ってもらおうと、2015年に始まりました。

県内外から参加した7チームの中に、今治工業高校の3人がいました。

チーム名「technical guys」。

学校生活で学んだ知識と技術を総動員して挑んだ船づくり、そして大会に密着しました。

夜遅くまで励む船の製作に不穏な空気…そこに登場した頼もしい助っ人は

大会2週間前。

「そんなギュっと閉めんでいいけん」
「軽くやろ」

授業や放課後の時間を使って、実習棟で大会で使用するオリジナル船の製作が、着々と進められていました。

3年生の課題研究の授業で、海上自転車を研究テーマに選んだ機械造船科の3人。機械コースに通う池内凌斗さんと田中雄心さん。そして、造船コースの石丸諒太さんです。

鉄の棒を切ったり、溶接をしたり。これ、学校の授業で学んだものづくりの知識や技術です。まさに、3年間の高校生活の集大成ともいえる船なのです。

3人の船づくりをサポートする稲葉先生。稲葉先生も海上自転車づくりは今年初挑戦です。

ところで、今治工業高校は過去、出場した大会で2位になったこともある「実力派チーム」。

作業はどうですか?

池内凌斗さん:
「ちょっ…順調です…」

3人:
「…」

おや?先生、いかがでしょう。

稲葉遼太郎先生:
「いやー分からないところや難しいところもあるので、現時点で言えば順調なんですが・・・」

ちょっぴり、不穏な空気が漂います。

と、ここで助っ人登場。去年まで担当していた長岡広紀先生です。

長岡広紀先生:
「ここ、バリが出とるやろ。バリが出てたら入らん」

「回るやん。いいんじゃない」
3人:
「ありがとうございます。」

ほっとしたのもつかの間…

長岡先生:
「ボルト入れると。これ見て分かる?」
3人:
「あー引っかかる」
長岡先生
「そうそう。引っかかるのでこのボルトの向きを逆にしてあたらないように付けないといけない。取り外して」

製作過程で出てくる課題を3人でひとつひとつ乗り越えていきます。作業は、夜遅くまで続きました。

ついにオリジナルの船が完成!果たして船づくりのプロの評価は?

大会まで1週間を切ったこの日。3人の船が完成し、試運転が行われます。

今年からは、市内の造船会社がオリジナル船の運搬や設計のアドバイスなど大会までの間高校生を手助けしてくれます。

日本シップヤード 設計本部 本宮弘係長:
「人力で漕ぐものとしては十二分な構造をもっていると思います」

船づくりのプロも認めた「technical guys」のオリジナル船。

大会を前に、生徒らは学校から車で25分ほどの玉川湖で、試運転です。

果たして船は…

ちゃんと進んでいます!しかも。

田中さん:
「スピードも出ているのでいけるのではないかと思います」

大会に向けて期待が高まります。

いよいよ迎えた大会当日は強風…テスト走行では船にトラブル発生

そして、迎えた大会当日。

県内外から、機械や造船に関わる高校や企業など7チームの8艇が今治市に集まりました。

「SMG 01」と名付けられた「technical guys」のオリジナル船。機械造船科(SMG)の英語の頭文字からつけられました。

田中さん:
「ほかの高校の海上自転車もなかなかすごい」

石丸さん:
「きょうはだいぶ風が強くて波が高いので、作った船のフロートが耐えられるかちょっと心配です」

この日の今治は、市内で観測した最大瞬間風速が11.4メートル。予定していたコースの距離も急遽、300mから200mに短縮されました。

レースを控えたテスト走行。船もトラブルに見舞われます。舵を調整するワイヤーにトラブル発生。3人が心配そうに見つめる中、先生たちが修復を急ぎます。

先生たち:
「先生、ハンドルを真っすぐにしとってもらっていい?」

不安の中、予選が始まります…それでも!

池内さん:
「これまでプールとか玉川ダムで練習してきて色々試行錯誤をしてきたので、その成果を発揮できるように頑張りたいです」

予選では学校のマラソン大会で全学年トップの実力者が大健闘!

4艇ずつ行われる予選の第一組。ドライバーは池内凌斗さんです。順調な滑り出しを見せます。

実は池内さん、学校のマラソン大会で全学年トップの実力者なんです。強風と波の影響は深刻で、制御不能になるチームや浸水し救助されるチームもでてきました。

その中で「SMG 01」は、池内くんの舵さばきもあってトップを争う大接戦。後半、やや遅れたものの大健闘でした!

池内さん:
「ワンチャン1位あるかなと思ったけど。少し回るところで少し離れてしまったんですけど、最後までゴールできたのでよかったです」

午後の決勝レースに備え、チームはバーベキューの火を囲みます。

あれ、池内さんは?

池内さん:
「もう帰らせていただきます」
先生:
「明日、就職試験で、このあとは準備があるので。残念なんですけど」
池内さん:
「仲間に託して帰らせてもらいます」

人生の岐路を前に、残念ながら池内さんはここまで。レースは、残った2人に託されました。

田中さん:
「緊張します。池内くんがゴールしてくれたので自分も完走したいです」

仲間の思いをつないで 最後のゴールをめざすメンバーたち

そして、決勝レース、スタートです。

池内さんの思いを受けて、田中さんが「SMG 01」を漕ぎます。砂浜では田中さんを見守る石丸さんと先生たち。

しかし、レースは2人で船を漕ぐパワーを生かしたチームが独走状態でゴールする中、「SMG 01」の姿は遥か遠く…。

長岡先生:
「頑張れー!」

石丸さん:
「雄心!雄心!」

田中さん、最後の力を振り絞って無事ゴール。結果は8艇中5位でした。

田中さん:
「頑張りました。最初は最下位だったんですけど、最後は一人だけ抜けて良かったです」

高校生活の集大成となる海上自転車の大会を終えた2人。

田中さん:
「友達と一緒につくったことは楽しかった思い出なので、一生忘れないと思います」

石丸さん:
「これからは辛いことがあっても乗り切れると思います」

3人をサポートしてきた先生たちは。

長岡先生:
「今回のものづくりを機に、いろんなことを経験して社会に出て行ってもらいたいと思っています」

稲葉先生:
「学校で学んだ溶接とか技能をしっかり使ってこのものづくりをしっかりやってくれたので、すごく意味のある時間になったと思います。生徒3人だけでフロートいう浮きの部分も手作りでゼロから作り直して、期間に間に合わせて、割れたり沈んだりすることなくゴールできたので、本当に生徒たちはよく頑張ったなと思います」

学校の授業と課題研究のテーマにと選んだ「海上自転車」の製作。全力で挑んだ3人は、その経験を胸に、それぞれの夢に向けての挑戦をはじめています。