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スーツケースが“道案内”し“話す”  視覚障害者のためのロボットを体験 生みの親語る“白杖との違い”

2023年1月30日 21:10
スーツケースが“道案内”し“話す”  視覚障害者のためのロボットを体験 生みの親語る“白杖との違い”
視覚障害者のための“道案内するスーツケース”を体験

未来の生活をよりよくする次世代の乗り物や、高齢者・障害者の移動を手助けするロボットなどを体験することができるイベント『未来を乗りにおいでよ。次世代モビリティのまち体験』。その開催セレモニーが日本科学未来館で行われました。

注目したのは視覚障害者を目的地まで自動で誘導することができる、“スーツケース型”のロボット。東京都の小池百合子知事も体験し、「安心して(目的地に)行けると思います」と性能について語りました。一体、スーツケースがどのように目的地まで誘導するのか? なぜスーツケースなのか? 取材しました。

■「AIスーツケース」記者が体験してみた

記者が実際に体験。まずスーツケースの持ち手の部分にあるボタンを押すと、スーツケースがひとりでに目的地の方向へ回転。自動で動き出し、導いてくれます。誘導されながら歩いていると、「左側、産業技術総合研究所」「点字ブロックがあります」という音声が聞こえ、どのあたりを歩いているか、先に何があるのかを認識することができます。前から歩いてきた人がいると、「人をよけました」という情報も教えてくれました。

一度持ち手から手を離してみると、スーツケースは自動的にストップ。“強く引っ張られている”という感覚はなく、自然な速度で誘導され、目的地に到着できました。

■「AIスーツケース」その機能とは

このロボットの名称は「AIスーツケース」。現状、通常のスーツケースのように荷物は入りませんが、以下のような機能が備わっています。

・内蔵されたAIが自動で最短経路を検出し、行きたい目的地まで案内
・上部に360度センサーがあり、周囲の障害物を検知してよける
・手を離すとセンサーが検知して動きが止まる
・ボタン1つで歩く速度に合わせてスピードが調整できる
・位置を推定し、建物や店舗の情報を読み上げる

これまで屋内でのナビゲーション実証を何度も重ね、今回初めて屋外で走行実験を実施(※現在の道路交通法では、目が見えない人は公道では白杖または盲導犬を連れる必要あり)。日本科学未来館の高木啓伸副館長は、「“私は駅に行きたい”など、目的地を音声でロボットに伝えて、連れていってくれる。人の言葉がわかるというのもロボットの良さだと思います。逆に、大きな段差や階段をのぼるなどは運動能力に優れた盲導犬が適しています。これからは適材適所で、いろんな技術を使って障害者の行動範囲を広げていければ」と、語りました。

■思いついたきっかけは“1人での出張”

この「AIスーツケース」のアイデアを生み開発を進めたのが、日本科学未来館の館長で、IBMのフェローなども務める浅川智恵子さんです。浅川さんは、中学2年生の時に失明。“スーツケース型”にしたのには、日常での経験がきっかけだったといいます。

――AIスーツケースのアイデアを思いついたきっかけは?

1人で出張することが多いんですけれども、空港で白杖(はくじょう)とスーツケースを一緒に持って歩いていると、両手が塞がってしまってすごく大変だと思うことがあって。白杖をしまってスーツケースを前に出して歩いていると、何か障害物があったらスーツケースがぶつかってくれる、割と役に立つなと思って。それがきっかけとして「じゃあこのスーツケースの中に、モーターやコンピューター、様々なセンサー、デバイスを搭載すれば、私の新しい旅のお供になるんじゃないかな」って考えたのがきっかけです。

■メリットは“違和感がなく街の中に溶け込める”

――“スーツケース型”であることのメリットは?

周囲の人が見た時に、“違和感がなく街の中に溶け込める”というメリットがあると思っています。“特殊な機械”ではなく、一般の生活者も使っているものと同じものであるいうことで、周囲に受け入れられる可能性がすごく高いと思っています。

ただ一方で私がいろんな場所で実験をしていても、周囲の人が私が視覚障害者であるということに全く気づかない。なので今後の課題は、視覚障害者であるということを周囲が知る必要がある時に、どういうテクノロジーを使えばそれを実現できるのかを今、並行して議論を始めているところです。

――そのデメリットをどう解決しようと考えていますか?

周囲が混雑している時などにはAIが判断して音を出す、ということも考えていきたいと思っています。あと、まだアイデアベースなんですけど、“光”ですね。視覚的に注意をひけるような光を出すとか、スーツケースの色に特徴を持たせて(視覚障害者のためのAIスーツケースだと)知ってもらう時の参考にするとか。そういった技術やアイデアを取り込んで、“知ってもらえる工夫”をしていきたいなと思います。

■当事者が語る、白杖との“感覚の違い”

――白杖とAIスーツケース、歩く時の“感覚の違い”は?

白杖で歩いていると「段差があるな」とか「階段があるな」とか、常に自分の一歩先に集中して歩きます。曲がった時にはなるべく早く修正しないと、例えば四つ角などでは危険もある。まっすぐ歩く、物にぶつからない、道に迷わない…これを常に考えながら歩かなくてはいけないんですね。

ただ、ロボットと一緒であれば、それら全てを考えなくていいんですね。目的地だけ入力すると、あとは任せて付いていけるので、「今日は寒いな」とか「あっ、鳥が鳴いているな」とか、「あっちでいい匂いがするな」とか。さっきは「子供たちがいっぱいいるな。何してるんだろう?」とか、“周囲の音”や“匂い”や “風”。そんなことを感じながら歩けるので、 “新しい体験”ができるようになったなと思っています。

――これまでの実験で視覚障害のある当事者が使った感想は?

「スーツケースに私の盲導犬の名前をつけてもいい?」とか、「これはかなり使いやすい。このまま持って帰っていいですか?」とか、すごくうれしいコメントをいただいています。あと、(AIスーツケースを使って)ショッピングをしていて、スーツケースを持っていると周囲から見て自分が目立っているという意識が全然ない、街に溶け込んで自分がゆったりと買い物をできているのが感じられて「すごく快適だった」というコメントもいただいています。

ただ、ユーザーの方からは次から次へといろんな希望がきます(笑)。 なので研究者としては、一つ一つできるところから取り組んで、さらに機能強化していきたいなと思ってます。

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