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MRJ失敗でも…航空機開発にこだわる政府 官民で4兆円投資 “2050年に向けビジネスチャンス” “安全保障の強化”も?

2024年3月30日 10:31
MRJ失敗でも…航空機開発にこだわる政府 官民で4兆円投資 “2050年に向けビジネスチャンス”  “安全保障の強化”も?

政府は27日、次世代の国産航空機開発などに向けた新たな戦略を取りまとめた。水素燃料など、脱炭素社会にも対応した次世代の国産航空機を、2035年以降に開発するとの目標を掲げている。政府は今後、開発のための研究費用などを幅広く支援する方針だが、国産旅客機開発をめぐっては、一度失敗に終わった経験も。政府はなぜいま、“国産航空機開発”にこだわるのか。その《ワケ》は。

■《ワケ1》2050年、航空機の脱炭素化…私たちが乗る航空機も“変わる”

航空分野では現在、脱炭素をめぐる議論が急速に進んでいる。特に、2022年10月には、国際民間航空機関=ICAOにおいて、2050年に二酸化炭素の排出量を実質ゼロにするなどの目標が掲げられた。日本もこれに応じるかたちで、2050年までに、航空分野でカーボンニュートラルを達成させると国際的に宣言している。

つまり2050年までに、水素燃料など、脱炭素社会にも対応した次世代の航空機開発が求められている。いわば、いま私たちが乗っている“従来型の航空機”の変革が迫られているのだ。

政府は、こうした環境の変化を航空機産業の「成長の機会」ととらえている。しかし、日本の航空機産業は、機体の装備品やエンジン事業の一部への参入にとどまっている現状があるという。

つまり、航空機産業全体が大きな変化を迎え、ビジネスチャンスがあるにも関わらず、このまま何の手も打たなければ、日本の航空機産業自体が衰退していく可能性があるワケだ。

■《ワケ2》MRJの失敗「日本だけで設計・開発」からの戦略変更

そもそも国産旅客機の開発をめぐっては、三菱重工業が2008年から、国産初のジェット旅客機=MRJの開発を進めていた。しかし、度重なる計画変更などにより、去年、撤退に追い込まれている。

政府はこれまで、新たな航空機産業戦略を打ち出すにあたり、MRJの失敗の経緯を検証してきた。その要因として、「安全認証プロセスの理解・経験不足」や「海外サプライヤー対応の経験不足」など、4つの点をあげている。

特に、MRJは、国産初のジェット旅客機開発ということもあり、実績のある装備品を搭載するため、エンジンなどの主要部品について、そのほとんどを海外からの供給に依存していた。

にも関わらず、政府関係者によると、旅客機の設計や開発を“日本だけで達成したい”との思いも根強かったという。そのため、豊富な機体開発経験のある海外人材などの確保に遅れを取ったほか、海外の取引先との契約などでタイムリーな連携に失敗し、計画変更が多発した。

結果、海外の供給先から必要な協力を確保できず、コストやスケジュールの管理が困難となり、最終的に開発を中止せざるを得ないかたちとなった。

■いまだ国産の“完成機”はなく…「国内外の事業と連携」

こうした教訓をいかし、戦略案では、航空機開発にあたっては、「民間企業1社でなく、官民で事業を推進する体制づくり」が不可欠との認識が示された。

さらに、先にも述べた脱炭素にも対応した次世代航空機の開発にあたっては、機体の燃費を改善するための新技術の導入など、複合的な課題に立ち向かう必要がある。

いまだ国産の「完成機」がない日本の航空機産業が変革期の中で将来的に“主導権”を得るためには、日本国内にとどまらず、海外との連携が重要になる。加えて、政府の支援などを前提とした官民の連携も必要不可欠になるというワケだ。

■《ワケ3》安全保障…防衛産業の発展もにらむ?

さらに政府は、国産の航空機開発を後押しすることが、ひいては日本の安全保障を担う防衛産業の発展につながることも期待している。

航空機に関わる部品は300万点にも及ぶとされ、中小含め多くの企業が関わっているという。そしてそれらの部品は民間の航空機のみならず、防衛産業にもつながっているといえ、航空機産業を全体として強化することは、結果として防衛産業の強化につながるのだ。

特に鍵となるのが、人材の育成だ。官と民が一体となり、航空機開発を後押しすることで、それに関わる知識と経験をもつ人材を日本全体で育成する。これが結果として、今後の日本の防衛航空機開発の発展に寄与するというシナリオがあるワケだ。

■航空機だけじゃない! 政府が“国内外の連携”を支援する構図

こうした《ワケ》で、政府は日本での「完成機事業の創出」、特に2035年以降の次世代航空機の開発を目標として掲げた。さらにこうした成長を官民で後押しし、強化する方針を示している。

近頃政府は、政府がより前に出て産業を後押しする政策を加速させている。半導体もその代表例だ。かつて「日の丸半導体」などと呼ばれた半導体も、「日の丸自前主義」に陥り、国際的な連携を築けず凋落。政府は現在、多額の補助金を投じる形で、熊本県にTSMCを誘致したり、北海道千歳市に国内8社が設立した最先端半導体の製造拠点・ラピダスの建設を後押ししたりしている。

ある政府関係者は、「日本の半導体戦略は、航空機戦略の一つのモデルになる。MRJの失敗もあり、おそらく海外からはいま、日本は諦めたと思われている。将来的に日本が航空機開発で主導権を握るためにも、まずは国内外との連携から始める必要がある」と話す。また、ある経産省幹部も、「日本で航空機を作れる環境にすることが極めて重要」と意気込む。

政府は今後10年間で、国産の次世代航空機開発のための研究費用などを支援するため、官民合わせて約4兆円の投資を見込んでいる。政府関係者は、「必要に応じてさらなる支援も検討していく」と話していて、今後、具体的な支援のあり方などが求められていく。