賃上げを加速する知恵は何か 経団連、日商、同友会のトップたちの発言は?
来年、物価高に負けない賃上げを実現できるのか? 賃上げ交渉の本格開始は来年1月ですが、早くも経済3団体トップらの賃上げ促進への姿勢に注目が集まっています。
10月19日、日商の小林健会頭(三菱商事相談役)は企業の経営者らに向け、「大企業、経営トップに、こちら(中小企業)を向いてほしい」、「労賃について見てくれないという不合理が出てきている」と苦言を呈しました。
つまりこれは、中小企業が賃上げできるようにするためには、コスト上昇分を、取引価格に上乗せ=価格転嫁する必要があるが、そのコストというのは、原材料費、電気代などの上昇分だけではなく、中小下請け企業などが自社の「人件費の上昇分」も取引価格に上乗せできるように見直さないと、賃上げができませんよ、という指摘です。
経済同友会の新浪剛史代表幹事は10月20日の会見で、まず、新浪氏自身が社長を務めるサントリーHDについて、来年7%程度の賃上げを行う方針を明らかにしました。理由は「人材確保」です。
新浪氏は、「人手不足に対しての現場からの声が大変大きい」「いまこの早い時期に(賃上げについて)話をすることで、サントリーは給料あげるぞ、という予見性を高めることが重要だ」と説明しました。
新浪氏いわく、中途採用が昔より増えているので「思い切り早く、賃上げ方針を出して、良い人材の確保につなげたい」といいます。
また、新浪氏は、労働組合を代表する「連合」が5%以上の賃上げを求める方針を示したことについて、「5%は適当(適切)な数字」だとの認識を示しました。新浪氏は、「賃上げできる企業が5%という数字を示していくことで、周りの賃上げ可能な企業にも波及する」「できる企業がどんどん賃上げすれば平均で5%もあり得ない数字ではない」との見解を示しました。
経団連の十倉雅和会長は「特に賃上げのプレッシャーを感じる」と会見で話しました。「前回は相当の熱量でやったが、今回はそれ以上の最大級の熱量で臨みたい」。「物価高に負けない賃上げは一回では終わらせない」と力を入れました。
ことしは、経団連加盟企業のうち調査に回答した社の平均で前年比3.99%アップと大幅な賃上げとなりました。(去年は2.27%の上昇)
経団連幹部によると、「物価上昇率を上回ったかはまだわからないが、『物価に負けない賃上げ』はおおむね実現した」という認識です。
しかし、日商の小林会頭が指摘した取引価格適正化の重要性について、経団連も一致しているものの、残念ながら会員企業一丸となって取り組んでいるとはいえない状況です。
取引価格の改善を促進するツールとして「パートナーシップ構築宣言」というものがあります。企業の社長が「取引価格の見直しについて、どういう姿勢で臨むか」中小企業庁などが運営するポータルサイト上で文書で宣言するものです。
実は経団連加盟企業の半分以上が、まだここで宣言を行っていません。この理由について、経団連幹部に聞くと「うちには下請けはないから関係ない取り組みだ、と思っている企業がまだ多いため」だといいます。
十倉会長は「意識、行動様式を変化させるよう努力していきたい」としていて、関係者によれば、昨日も会員企業に直接強く働きかけたということです。
■賃上げは企業戦略
個々の企業が適切な人材を確保し、日本経済の好循環を実現するためには来年の賃上げは重要です。
「そう言われても、今の業績では来年の賃上げは無理だ」という経営者がいるとしたら、危機意識を持たなければなりません。賃上げできるようにするために、経営戦略の見直しまで検討する必要があるかもしれません。