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プーチン大統領の使者東京へ 新ロシア大使に初の単独インタビュー 緊迫の80分

2024年7月16日 6:15
プーチン大統領の使者東京へ 新ロシア大使に初の単独インタビュー 緊迫の80分

沈黙を守ってきた新しいロシア大使が、日本テレビのカメラの前で初めて記者の質問に答えました。東京に留学経験があり、全てのやりとりを母国語でなく日本語でこなす姿から読み取れるプーチン大統領の狙いとは。

在日ロシア連邦大使館、特命全権大使ニコライ・ノズドリェフ氏(52)。ウクライナ侵攻を続けるロシアが「非友好国」とみなす日本に派遣した外交官は、今年3月の来日以降、4か月にわたり、一切のメディア取材を受け付けませんでした。厳しい制裁を行う日本政府とは交流もないノズドリェフ大使の肉声がわずかに聞こえたのは、インタビューの1か月前、東京港区のロシア大使館で行われた「ロシアの日」式典でのスピーチでした。

ノズドリェフ大使
「西側の帝国主義的なやり方に対抗して、私たちは公正で持続可能な国際的アーキテクチャの構築を目指して、リーダーシップを発揮していく構えです。グローバルサウスやイースト、西側の国々でも、志を同じくする人の支持を感じています」

その言葉から欧米中心の世界秩序への強い対抗心が見て取れました。

■キーウ攻撃で小児病院に多数の死者

7月10日、ようやくインタビューが実現しました。直前の8日、ロシア軍によるウクライナの首都キーウへの攻撃により、小児病院などで子どもを含む死者が多数出ました。私たちは冒頭、この件についてコメントを求めました。

──ロシアの攻撃で子どもを含めた民間人が犠牲になっている現状について、大使はどのように考えますか?

ノズドリェフ大使は質問に直接答えず、ウクライナの親ロシア派政権崩壊につながった2014年のマイダン革命当時の情勢に話をすり替えると、欧米の陰謀で動かされた武装集団がロシア系住民の殺りくを繰り返しているなどと、とうとうと語り始めました。

初期の停戦交渉が頓挫したのも西側の責任だと、独りよがりな主張を始めたところで、私たちは大使の話をさえぎって質問をぶつけました。

──プーチン大統領は、もともとG8のメンバーで、国連安保理常任理事国の首脳であり、国際秩序・国際法にのっとった行動が求められる立場です。ウクライナ侵攻は『力による現状変更』であり、国際秩序を乱すものと受け止めますが、いかがですか?

大使は今度も、この質問に直接答えず、ようやく冒頭の質問に答えました。

ノズドリェフ大使
「おととい行ったキーウに対する攻撃で、破壊をしたのはノルウェー製のNASAMSという対空防衛システムのミサイルだったのです。つまり、ロシアのミサイルを迎撃しようとして、最終的に誤った操縦があったかもしれません」

子どもを含む42人が死亡した小児病院などへの攻撃について、「ウクライナ側の迎撃ミサイルによるものだ」と主張しました。

■ブチャ虐殺について

その後、ロシア軍の巡航ミサイル「Kh101」に間違いないとする調査機関や専門家の分析が明らかになりましたが、この時点では十分な情報がなく、議論が堂々巡りとなるため、私たちは話を変えました。2022年の侵攻当初の現地取材で確実に裏付けが取れている、キーウ近郊のブチャで民間人が多数殺害された事実をただしました。

──私たちがブチャのウクライナ人を取材したところ、通りを歩いていたらロシア兵に撃たれたという証言を得ました。衛星写真でも証明されています。

ノズドリェフ大使
「私は、まさに逆だと思っています。もし、このような事件があったとしたら、具体的な犠牲者の名前、リストをきちんと渡していただければどうかと何回も主張したが、一度も具体的な名前を出していない。ということは、具体的な証拠がないのだと思います。現地の人は、おそらく何かを恐れている」

議論はかみ合いませんでしたが、人権問題には特にこだわって聞かねばなりません。

■ウォール・ストリート・ジャーナル記者収監について

スパイの罪で収監されているアメリカの新聞社、ウォール・ストリート・ジャーナル記者の解放についても、国連人権理事会が恣意(しい)的な拘束と認定して抗議していることをただしましたが、「まったく根拠がない。実際の行動や情報によって明らかにスパイ行為だ」と、とりつく島もありませんでした。

当日は、大使館スタッフが取材を見守りましたが、通訳は立ち合いませんでした。ノズドリェフ大使は私たちの日本語の質問を全て理解し、従来のロシア政府の公式見解に沿って日本語で能弁に語りました。

人権問題の追及にも冷静だったノズドリェフ大使が、私たちの質問に対し、やや前のめりになる場面が2回ありました。

■反欧米の新たな多極的世界?

1つ目は、欧米中心の国際秩序に対抗するロシアの思惑について聞いたときです。

──アメリカを中心とした西側社会は民主主義、法の支配といった価値観に結ばれています。ロシアの動きは、そうした欧米中心の国際秩序に対抗し、新しい秩序をつくる動きにも見えますが、いかがでしょうか?

ノズドリェフ大使
「どこかの国が勝手に決めたかのような発言と受け止めているんですけど、そもそも今の国際社会の流れを見ますと、2つの大きな傾向があると思います。西側諸国が国際貿易の面で、いろいろ障壁をつくっていることに対し、グローバルサウス諸国からは不満の声が出ています。それは自由貿易という原則の基本的な違反だと私は思う」

アメリカに支配されない、多極的な世界を描いているようです。

「G7を中心とした世界経済、あるいは安全保障、こうしたものに対する…」と私が質問しようとすると、「今、変わりつつあります」と語調を強めて返してきました。

グローバルサウスと呼ばれる国々との共通の利害を強調する大使の言葉には「ロシアは孤立していない」という主張が、にじんでいました。

■「中国、インドは極めて重要な戦略的パートナー」

2つ目は中国について聞いたときです。ノズドリェフ大使は中国との協力関係をことさらにアピールしました。

ノズドリェフ大使
「中国は今までも、ずっとロシアにとって極めて重要な戦略的パートナーだと思います。13年にわたり、ロシアの貿易第1相手国だった。これからも発展していきたい」

──中国はロシアを全面的に支える形では、できない。中国のロシアに対する姿勢は、半身な部分があると思うが、いかがでしょう?

質問中の「半身」という言葉に、大使の表情が敏感に反応し、きっぱりとした反論が返ってきました。

ノズドリェフ大使
「今のところ、まったく見当たりません。中国は、いろいろな面においてロシアに協力しています。特に経済面、技術面、国民の交流も盛んに行っています。今後も二国間関係を積極的に発展していきます」

一方で、北朝鮮との関係は、中国とインドを「極めて重要なパートナー」と繰り返し述べたのとは対照的に「隣国とは良い関係を築きたい」と冷めた言い方に終始しました。

現在のロシアは、北朝鮮やイランにとどまらず、中国、インドといった大国、グローバルサウスを味方につけ、アメリカを外した新しい多極的世界を志向していることがうかがえました。

ウクライナとの停戦の条件について答えを求めると、東部4州からの「完全撤退」、NATO(=北大西洋条約機構)加盟を諦めることなどと、事実上の降伏を求める姿勢を崩しません。

「ウクライナ軍は数多い犠牲者を出して不利になっているから、おそらく、あと1年~1年半くらいたてば、最終的に(降伏を)決断するのではないか」などと強気でした。

■24年前のプーチン大統領とノズドリェフ大使

ノズドリェフ氏は意外なほど、快活で社交的な人物でした。平時なら、たちまち東京に友人の輪が広がったでしょう。24年前、1期目の大統領就任後初の公式訪問で、東京を訪れたプーチン氏も当時、冷たい印象ばかりではありませんでした。東京の迎賓館で行われた晩さん会に内閣記者会代表として参加した私は、相手の目をジッと見るプーチン氏の思慮深そうな目が印象に残っています。握手した手は温かく、ぼってりと厚みがありました。

ノズドリェフ大使と互いに握手を求めることはありませんでしたが、別れ際、「これからも機会があれば、ぜひ議論を続けていきたいと思います。ありがとうございます」との言葉がありました。プーチン大統領が何を考え、日本、国際社会にどう向き合おうとしているのか。唯一開かれた窓となったノズドリェフ大使の発言から、何か事態の好転につながるヒントはないか。私たちは引き続き、目をこらして取材していきたいと思います。

(報道局長・伊佐治 健)