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日本企業のイラク進出 課題は治安対策

2013年4月26日 16:36
日本企業のイラク進出 課題は治安対策

 復興を目指すイラクでは外国企業の進出が進んでいるが、課題となるのは爆弾テロなど不安定な治安だ。治安の問題をどう克服して有望市場に挑むのか、イラクに進出を始めている日本企業をカイロ支局・富田徹記者が取材した。

 3月、首都バグダッドにある日本企業の事務所を訪ねた。建物の屋上には警備員の姿もある。病院建設のコンサルタントを行う日本企業“アイテック”の事務所だ。「日本人の在籍は13人です」と案内してくれたのは、アイテック・バグダッド事務所の三田村清幸さんだ。医療機関が不足するイラクでは現在、各地で病院建設のプロジェクトが目白押し。そんな中、イラク政府が目を付けたのは、進んだ日本の病院建設のノウハウだった。三田村さんはイラクと日本企業との関係性をこう語ってくれた。

 「この国で日本企業は、医療については1980年代からずっと手伝ってきた。今回も10病院を造るにあたって、ぜひ日本人の力を借りたいと」

 アイテックは2009年にイラク政府と契約を交わし、現在はイラクで建設中の大型病院のほとんどを手掛けている。

 一方で、この国での事業は常に、治安の問題と隣り合わせだ。アイテックの取材中にも、近くで爆弾テロが発生していた。事態を受けてすぐに厳戒態勢が敷かれる。警備員が三田村さんに現状を報告する。この日、バグダッドではたくさんの爆発が起こり、事務所のあるカラダ地区でも起こっていた。そこで、このエリアを防弾車両で封鎖しようとしているとのことだ。三田村さんは「特に爆弾を積んだ車が突っ込んでくる。それが一番怖いので、そういう時はゲートを閉める」と語る。このように、民間警備会社が守りを固めた建物で、日本人スタッフたちは全員、生活も共にしている。

 その様子を見せてもらった。仕事場である事務所の2階がスタッフたちの居住スペースだ。案内してくれたのはこの建物で生活する戸川翔太郎さん。スタッフは業務で外に出る以外、24時間外出禁止。ほとんどの時間を部屋の中で過ごすことになるため、日本からたくさんの本も持ってきた。戸川さんは「2か月に一回(周辺国への)一時出国だけが楽しみで、毎日ガイドブックを見て。あとはゲームとかタブレットで―」と教えてくれた。運動不足を解消するため、卓球台もあった。また、全員で囲む食卓には日本の調味料。こもりっきりの生活でも、少しでも快適に暮らせるよう日本から運んでいる。不便な生活と治安対策への多額の費用、それでもイラクでの事業展開を決めた理由を聞いてみた。三田村さんはその理由をこう答えてくれた。

 「今、ここで日本企業が入らないとこの先入るチャンスはないだろう。医療はその国のインフラ、社会基盤を底上げする大きな目標がある。『日本に協力をお願いしたい』と言われれば、やらざるをえない」

 一方、イラク国内には拠点を置かず、隣国ヨルダンから出張を重ねながら事業を進める企業もある。イラクで石油関連施設の建設に携わる日本オイルエンジニアリング・高田洋さん。出張の際は常に警備会社による護衛付きだ。高田さんは「基本的には車3台、コンボイ(車列)を組んで、前で警戒する車、我々は真ん中で警護されて、後ろはバックアップする」と説明してくれた。現地ではイラク側の担当者と打ち合わせなどをこなす。出張中、滞在するのは高い壁に囲まれた要塞のような宿舎だ。高田さんは、イラクの建設事業の実情をこう語る。

 「イラクの建設プロジェクトというのは、建設コストの50%を超えるのがセキュリティーコストと言われる時もあるんです」

 経済成長著しい中東・アフリカ各国への進出を急ぐ日本企業。こうした中、現地の不安定な治安にどう対応するのかは、ますます重要な課題となっている。2013年1月、アルジェリアで起きた人質事件では、現地で働く日本人10人が死亡し、日本の企業関係者に大きな衝撃を与えた。一方で、こうした新興市場でのライバル企業との競争は、激しさを増しているという。高田さんは「現実に中国、韓国(の企業)は入ってきてますから、今が最後のチャンスだと思います」と語る。

 世界の隅々まで繰り広げられるシェア争いに乗り遅れまいとする日本企業。社員の安全確保とどう両立していくのか、試行錯誤はまだ続きそうだ。