“日本は制裁対象外”ロシアの思惑とは?
欧米などからの経済制裁への報復として、食料品の輸入禁止を発表したロシア。しかし、その対象に日本は入らなかった。その思惑とは…山内康次記者が取材した。
先週、モスクワの中心部で異変が起きていた。
山内記者「モスクワのマクドナルドの店舗です。20日の夕方に突然、営業を停止しました」
ロシア消費監督庁は、マクドナルドの3つの店舗の衛生状態に数多くの法律違反があるとして営業停止処分にした。
アメリカを代表する企業であるマクドナルドの進出は、当時、“東西冷戦終結の象徴”ともいわれた。ロシアは、これまでにも紛争相手国の特産品を持ち込み禁止にしたことがあり、ロシアの新聞は、アメリカとロシアの対立が背景にあるとの見方を伝えている。
アメリカとロシアの対立が激しくなったのは、今年3月にロシアがウクライナのクリミア半島を一方的に編入したのを受け、アメリカが経済制裁を科したのがきっかけだった。さらに、7月のマレーシア機撃墜事件では、アメリカやウクライナは親ロシア派武装勢力が関与したと主張。ヨーロッパも、親ロシア派を支援するロシアへの制裁を強めた。
そして、8月7日、今度はロシア政府が、欧米からの経済制裁への報復として、食料品の輸入を1年間禁止すると発表した。禁輸の対象は、アメリカ、EU(=ヨーロッパ連合)など5つの国と地域で、日本は含まれなかった。
モスクワ市によると、モスクワで消費される食料品のうち輸入品の割合は22%で、乳製品は55%、果物は75%以上だという。
買い物をする女性「スペインのチーズが好きで、よくチーズを買いに来るんですよ。今日は買いだめします」
報復制裁には入らなかったはずの日本。しかし、和食店でも影響が出始めている。
和食店のすしを堪能する山内記者「うん!おいしいです。モスクワに住んでいますと、こうして日本の味を楽しむことは少ないのですが、これからは、もっとその機会が減るかもしれません」
モスクワで人気の和食だが、ヨーロッパに近い場所柄、すしや刺し身のネタはヨーロッパからの輸入品が多いのだという。
日本料理店「誠司」・草野店長「エビはカナダ、すしはノルウェーのサーモン、刺し身はスコットランドのサーモンです」
サーモンは、輸入禁止が発表になった直後に高騰し、値段は1キロ約1000円が2000円に跳ね上がり、経営を圧迫しているという。
草野店長「コストは5倍から6倍になっちゃうんじゃないですか。原価が上がりますから、それが一番困ります。値上げをすると、客が来ないという悪循環になります」
一方で、モスクワから東に1万キロ。北海道に近いサハリン州では事情が少し違う。こちらのスーパーで売られているのは、日本でおなじみのビールや食料品だ。さらに今、欧米からの輸入が止まっている野菜や果物について、輸入禁止の対象となっていない日本からの輸入を増やすことにしたという。
実は、日本を輸入禁止の対象から外した背景には、ロシアの戦略があると専門家はみている。経済高等学院・発展センターのセルゲイ・プホフ主任研究員はこう話す。
「今後、制裁は食料品だけでなく、ハイテク製品にも導入されるでしょう。日本とは貿易を続け、ハイテク製品を確保することが重要なのです」
食料品の輸入禁止の背景に見え隠れするロシアの思惑。
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