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要衝オデーサ 総延長2500キロ? 巨大地下トンネルの謎

2022年5月18日 10:45
要衝オデーサ 総延長2500キロ? 巨大地下トンネルの謎
2022年5月12日「深層NEWS」より

ウクライナ第3の都市、黒海に面する南部の要衝オデーサ。プーチン大統領はこの地を掌握したい強い野心を抱いていると指摘されています。

5月12日放送のBS日テレ「深層NEWS」では、ロシアNIS経済研究所所長の服部倫卓さん、筑波大学教授の東野篤子さんをゲストに「歴史・地理・経済」の観点から、なぜプーチン大統領がオデーサ掌握に固執するのか。そしてオデーサの地下に張り巡らされている、総延長2500キロともされる巨大地下トンネルの謎に迫りました。

■演説に見える8年前の記憶

右松健太キャスター
「オデーサは黒海に面したウクライナ第3の都市で、人口は約100万人。海上貿易の拠点として、また『黒海の真珠』とも呼ばれ国内屈指のリゾートとしても有名です」

「プーチン大統領は戦勝記念日の演説でオデーサについて、次のように言及しています」

(プーチン大統領戦勝記念日演説)
「2014年5月に労働組合会館で生きたまま焼かれたオデーサの殉教者たちの記憶に頭を下げます」

郡司恭子アナウンサー
「8年前、オデーサで何があったのか。2014年2月、ウクライナで親ロシア派のヤヌコビッチ政権が崩壊。これに危機感を強めたプーチン大統領はロシア系住民が過半数を占めるクリミア半島に軍を派遣しました」

「2014年3月、クリミアのロシアへの編入を宣言。この混乱はウクライナ東部、そして南部のオデーサにも波及します」

「2014年5月2日、オデーサで親ヨーロッパ主体のウクライナ暫定政府の支持者と親ロシア派住民が衝突。親ロシア派が占拠したビルでは火災が発生し、一連の衝突で計46人が死亡しました」

「プーチン大統領が戦勝記念日の演説で、衝突の犠牲者を『殉教者たち』と述べた意味合いをどうみますか?」

服部倫卓氏
「近年のプーチン大統領の言葉遣いというのは、善悪の二元論のようなものが強まってます。この『殉教者』という言葉は、プーチン大統領がその文脈で使ったものだと思います」

「プーチン大統領は、今回の軍事作戦の目的を『ネオナチからの解放』と言っていて、プーチン大統領側が主張する『ネオナチの2大エビデンス』の1つは、マリウポリの製鉄所に立て籠もるアゾフ連隊です」

「もう1つがこのオデーサの事件で、今年2月21日、今回の軍事作戦を開始する前にもプーチン大統領は演説の中でこのオデーサの事件を挙げていて、それだけ執念を見せているのです」

東野篤子氏
「まさに『殉教者』という言葉を使ったのがミソなのだろうと思います」

「つまり『ロシアと一体化することに命を懸けようとしていた人たちが、無残にもウクライナの暫定政権に殺されてしまった』『この人たちはロシアのために命を懸けてくれた』というような言説を作り上げているのです」

「『殉教者』という言葉を、しかも(演説時の)黙祷の直前に使った。これもポイントです」

「(演説の)クライマックスに持ってきたということは、やはり今の戦いがいかに『ナチズム』との戦いなのか、そして我々はいかに崇高な戦いをしているのか、ということをオデーサに込めたのだと思います」

■「ノボロシア」の幻影

右松キャスター
「ウクライナ東部と南部の一帯を、かつてプーチン大統領は『新しいロシア』を意味する『ノボロシア』と呼んでいます」

服部氏
「この『ノボロシア』一帯というのは、かつて18世紀にピョートル大帝やエカテリーナ2世といった、プーチン大統領も尊敬すると言われるロシアの君主たちが、当時のオスマン帝国と戦った『露土戦争』で獲得した領土です」

「『この地域はロシアの伝統的な領分であり、ウクライナが自分たちの力で獲得した土地ではない』ということを主張しています」

「帝政ロシア時代からロシア人が住み、ロシア帝国の穀物輸出を当時から代表する港町だったというような歴史ロマンというものはプーチン大統領の行動の背景にあることは間違いないです」

右松キャスター
「政治家は国家観や歴史観を持っているわけですが、さまざまな利害関係の中で調整や妥協というものがあって現実の政治を展開していくと思います」

「プーチン大統領は今後、野心を満たすこととそれにかかる現実的なコストをどう計算をしていると思いますか?」

東野氏「侵攻前までは、いろいろな理論武装だったり歴史武装だったり、歴史と現実についてある程度(分けて)考えていたのだろうと思います」

「プーチン大統領としては、東部に精鋭部隊を投入し、2か月半戦ってもまだまだ陥落させていないことに非常にいら立ちを見せているとも言われています」

「もうこれ以上戦っても、ロシアがより不利になっていくばかりだと。国は疲弊していくばかりだし、戦利も入ってこないということを一刻も早く気付いてくれればいいのですが、どこで線引きするのかというところは全く戦勝記念日の演説からは浮かび上がってこない。『このままいきます』というメッセージにしか読めないです」

■世界的食糧難の前触れ?

右松キャスター
「ロシア軍はウクライナ南部の町ヘルソンを掌握したと主張しています」

「ウクライナ東部からモルドバ共和国にある親ロシア派が多く住む地域「トランスニストリア」までつながるとすれば、ロシアにとっては地政学的に何を意味しますか?」

服部氏
「前々から言われていたとおり、ドンバス地方からクリミア半島まで至る陸上の街道を構築するというのはやはり最低限の目標としてあったと思いますが、その延長上にこのオデーサ、ミコライウを含む南西の一帯も視野に入ってくる」

「モルドバにはロシア軍も沿ドニエストル(トランスニストリア)に駐留している」

「軍事的な能力との乖離がどんどん広がっていますが、プーチン大統領の野望としては視野に入っていることは間違いないです」

右松キャスター
「ロシアがオデーサを制圧すれば、ウクライナは黒海から遮断され内陸化してしまいます。国内最大の港湾として穀物輸出などの重要な貿易拠点が押さえられてしまうことは、経済的にウクライナにとっては?」

東野氏
「例えば、穀物以外でもひまわり油では輸出量が世界第1位の国です。それからトウモロコシ、大麦、小麦などが非常に重要な輸出品目で、これが発展途上国などさまざまなところに輸出され、主に中東や北アフリカ、広くは東南アジアまで至っています」

「輸出ができなくなると、例えば穀物や油の価格がものすごく上がってしまう。あるいは、そもそも買えなくなってしまうというようなことが起こりうるわけです」

「FAOなどの国連機関は最近、『これは世界的な食糧難の前ぶれ』『世界を食料危機から救うためにもオデーサを開けるべきだ』というような声明を相次いで出しています」

「全くロシア側が応じる気配がないですが、このまま長期化していくと、世界経済にウクライナ侵攻が大きな影響を与えることになってしまいます。その意味でもオデーサは極めて大事なところです」

■総延長2500キロ!? オデーサの地下に広がる巨大トンネル

郡司アナ
「オデーサの地下にある巨大空間。世界最大級とされる地下トンネル網です。ロシア軍の侵攻前に、この地下トンネルの内部を撮影した映像があります」

「赤い扉を開けると地下へと続く階段が。25メートルほど下ります。第二次世界大戦中にソ連軍が潜伏し、抵抗を続けたといいます」

「これは、ウクライナ侵攻以前の2020年に撮影された映像です。岩盤には馬や花の絵が。石灰岩の採掘場として1800年代初めから掘られ始め、最大地下60メートルの深さがあるといいます。

大量に並んだガスマスク。迷路のように入り組んだ地下トンネルが広がり、郊外まで含めた総延長は2500キロとも。錆びついた兵器が。核シェルターとしての施設もあるといいます」

「市民の避難先としても活用されています。地下トンネルには水の流れも。石灰岩にろ過された水が地下に降る雨となります。神秘的な湖が広がり、魚も泳いでいました」

郡司アナ
「これはいま実際に住民の避難に使われているのでしょうか?」

服部氏
「オデーサはウクライナ第3の都市の割には地下鉄がないんです。キーウなどでは市民は地下鉄に逃げることが多いのですが、その代わりになっているような感じです」

右松キャスター
「地元ではどのような位置づけなんでしょうか?」

服部氏
「観光ガイドなどには載っており、ガイドのような人もいて、お金を支払うと安全なところだけ案内してもらえるようです」

右松キャスター
「耐久性は、どうなのでしょうか?」

服部氏
「石灰岩なのでそれほど丈夫ではなく、アゾフスタリ製鉄所のような爆撃を受けたらちょっと耐えられないのではないかというイメージがあります」

東野氏
「やはり使えるところは使えるというところに尽きるのだと思います」

「ただ、こういった事態をあまり想定してなかったということもあって、どこまでどのように使えるのか、危ないところがどこなのかということを、おそらくオデーサの当局もきちんとは把握していませんし、網羅的にきちんと知っている人というのもなかなか少ないのではないかと思います」

「仮に市民がここに逃げ込んでて立てこもったときに、入り口が1000個以上あるので、ロシア軍としても入っていくとなると相当複雑な作戦になっていくんだろうと思います」

「ウクライナ人も、果たしてここで安全に自分たちが暮らすことが、あるいはロシア軍の攻撃から身を守ることができるのかと言われると、ロシア軍からの攻撃もあるかもしれない」

「しかし、オデーサへの攻撃が激しくなったときには危険を承知でここを使わなければならないということだと思います」

飯塚恵子 読売新聞 編集委員
「アメリカには、さまざまな軍事専門家いますが、陸空海だけでなくて『地下』の専門家もいるんです」

「フィラデルフィアのシンクタンクの研究者によると、冷戦時代からアメリカやNATOとソ連が空中で、つばぜり合いを繰り返していたので、ウクライナ各地に地下壕を作っていたということなのです」

「地下壕というのはレーダーにまず捕捉されない。狭くて迷路のようで奇襲攻撃や迎え撃つにはぴったりなのだと」

「プーチン大統領はマリウポリの完全制圧を目指していたのに、4月21日の指示はロシアの報道によると『トンネルに入って地下を這いずり回る必要はない』とのことでした。

プーチン大統領はウクライナの地下トンネルの恐ろしさを把握していて、マリウポリでの完全制圧はもうできなそうだと判断したのだと思います。ロシアがオデーサを陥落させるのは、マリウポリより大変だと思います」


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