児童手当「所得制限なし」に? 突然の茂木発言、本当に実現する?
自民党の茂木幹事長は25日の衆議院本会議での代表質問で、児童手当の所得制限を撤廃すべきとの考えを示した。岸田首相が「異次元の少子化対策」のメニューの1つと掲げる児童手当の拡充は、はたして「所得制限の撤廃」という形で実現するのか。
「児童手当については『すべての子供の育ちを支える』という観点から、所得制限を撤廃するべきと考えます」
自民党の茂木幹事長が25日、衆議院本会議でこう述べたことを受け、立憲民主党の泉代表は「特例給付を廃止して、所得制限をより厳しくした自民党がよく言うなと思った」と痛烈に批判した。また、ある立憲民主党の幹部も「びっくりして椅子から落ちそうになった。今更遅い。まずはこの10年、間違っていましたと謝罪と反省が必要だ」と非難の声をあげた。
野党がこぞって批判するのは、過去の自民党の“対応”だ。そもそも、児童手当は子どもを持つ家庭への経済的支援として1972年に始まった。民主党政権では、「子ども手当」として所得制限がなくなったが、当時、野党だった自民党が「バラマキだ」などと批判し、2012年から所得制限が設けられた。現在の制度では、中学生以下の子ども1人あたり1万円から1万5000円が支給され、年収960万円以上だと月5000円、たとえば、子ども2人の場合だと年収1200万円以上は給付の対象外となっている。
茂木幹事長は、野党時代からの方針転換ではないかという指摘に対して「必要な政策というのは常に見直していかないといけないし、時代のニーズなども考えないといけない」と説明した。
ここ2日間、国会などでは、茂木幹事長の発言に呼応するかのように、児童手当の所得制限の撤廃を求める声が相次いだ。
「児童手当は『所得制限』を撤廃。高3まで支給。これもできて当然です」(立憲民主党 泉代表 25日)
「児童手当について、対象年齢・所得制限・支給額など制度の見直しによる拡充を具体的に検討すべきです」(公明党 石井幹事長 26日)
「大阪で全ての教育を無償化する。それについては所得制限を撤廃するという方向でやっていますから方向性としては合っていると思います」(日本維新の会 馬場代表 26日)
「児童手当など子育て・教育施策の 所得制限撤廃の決断を」(国民民主党 玉木代表 26日)
ただ、茂木幹事長の所得制限撤廃の要請に対して、岸田首相は「子ども子育て政策は最も有効な未来への投資」と述べるにとどめ、具体的な回答を避けた。自民党幹部の1人は「首相サイドとすり合わせをしなかったのではないか」と指摘。さらに、ある政権幹部は「あくまで幹事長の考えを言っただけで、政府としてはまだ決めていない」とけん制した。
ひとくちに児童手当の拡充といっても様々なやり方がある。公明党は、対象年齢、所得制限、支給額の3つの分野に分けて検討している。公明党幹部は「党内でも議員によって優先すべきと主張するものが違うが、所得制限撤廃は最低ラインだ」と解説する。
政府関係者によると、所得制限を撤廃すると1500億円程度、対象を高校生まで拡大したら約4000億円、多子世帯の第2子以降の増額には2~3兆円かかると見込まれている。
ある自民党幹部は「年収2000万円でも子どもを大学に入れるまでには相当しんどい。限られた財源を考えて、所得制限を残すにしても、ほぼ所得制限がないぐらいの金額にした方がいい」と話す。一方、別の自民党幹部は「児童手当の所得制限にかかる人は、都市部だと対象が3割ほどのところもあるが、地方では2~3%しかいない。所得格差をどうするのかも考えないといけない」と課題を指摘する。
岸田首相が打ち出した「異次元の少子化対策」をめぐっては、自民党内には「児童手当の拡充だけなら、どこが異次元なんだ」「財源論を後回しにして中身を決めるのは無責任だ」といった声もある。過去最低になる見込みの出生数の減少に歯止めをかけられるのか。3月末のとりまとめに向け、茂木幹事長が打ち上げた「児童手当の所得制限の撤廃」は政府のメニューに入るのだろうか。