「このままじゃ産めない」出産育児一時金 増額なるか…浮き彫りになった2つの課題とは
「出産育児一時金」は現在、子供ひとりあたり42万円が支給されている。しかし、出産費用は全国平均で約46万円。42万円以内でまかなえたのは、わずか7%以下というアンケート結果もある。16日、自民党の議員連盟は「40万円台半ば」への増額を求める提言を岸田首相に提出した。出産費用をめぐる実態を取材したところ、2つの課題が見えてきた。
■出産育児一時金42万円では費用が“まかなえない”
厚生労働省の2019年度調査によると、個室料などを除く出産にかかる最小限の費用は、全国平均で約46万円、公的病院でも約44万円。都道府県別にみると、都市部ほど高くなる傾向にあり、全国最高の東京都では、平均約62万円だった。
出産は、原則、健康保険は適用されず、正常分娩は自由診療となっているため、医療機関が自由に費用を設定できることが高額化の背景にある。
現在、出産にあたっては「出産育児一時金」が子供ひとりにつき42万円支給されているが、出産を予定する母親たちからは「とてもまかなえる金額ではない」と悲鳴があがっている。
「出産にこんなにお金がかかるなら、3人目は産むの大変だよねという気持ちになる」
こう話したのは、都内の病院で今年1月に女の子を出産した母親。出産時にかかった費用の明細を見せてもらうと、出産費用は約87万円。内訳を見てみると、最も高いのが分娩料で33万4950円。新生児管理保育料19万5520円、入院料19万3370円、室料差額10万2000円などと続く。
出産育児一時金の42万円を引いて、自己負担額は45万円に。この母親は、退院するまで出産費用の総額を知らず、明細は細かすぎるうえに難しく、よくわからなかったと話す。
生後3か月の子を持つ母親「厳しいですね。産んで終わりじゃないので、産むことだけでそんなに費用がかかると、この先おむつなどの消耗品などにお金がかかるのが不安になる」
広島県出身だという母親は、都心部での出産費用の高さにも驚いたという。
生後3か月の子を持つ母親「新型コロナの影響もあるから実家に帰りづらいと思って、東京で出産した。地元で産んだら出産育児一時金で42万円ももらえるんだったらおつりがくるんじゃないと言われた」
実際に、広島県で出産した場合の平均は約48万円。東京都と比べても約14万円の開きがある。
子育て支援策の充実を訴える市民団体「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」によると、出産費用についてのアンケート結果では、「出産育児一時金」の42万円以内で産めたのはわずか7%で、その多くが帝王切開など保険適用によって負担が軽減されていたことが明らかになった。
さらに、「支払った出産費用について高いと思う」と答えた人が64.7%、「妥当だと思う」が28.9%で「安いと思う」の6.4%を大きく上回った。
また、「出産費用が不透明だ」という指摘も多かったという。入院予約金を求められることや、エステや特別な食事などの加算も負担が大きくなる要因となっていた。
これらは、パッケージになっているため、自由に選択することが難しいケースも多い。
アンケートを行った団体の佐藤拓代共同代表は、ブラックボックス化している出産費用の透明化が求められると訴える。
佐藤拓代共同代表「退院時にしか、いくら請求されるかがわからないのは全国どこでも同じ。出産にかかる費用の“見える化”と整理が必要だと思う。出産費用の標準化をしたほうがいい」
こうしたなか、「出産育児一時金」を増額し、出産費用の“見える化”を進める動きも出てきた。
自民党の「出産費用等の負担軽減を進める議員連盟」は16日、岸田首相に対して、「出産育児一時金」を現在の42万円から、最低でも40万円台半ばに増額するよう提言した。
あわせて、基礎的費用とそれ以外の選択的費用のコスト構造を“見える化”することも盛り込んでいる。
小渕優子会長「(岸田首相からは)こうしたことをしっかり達成していくことは大変大事なことであるというふうにお話をいただいた」
政府は、厚労省が行っている出産費用高騰の調査や分析によって、現状を把握した上で、一時金の増額に向けた検討をしたいとしているが、必要な財源を確保できるかは不透明な状況だ。
さらに、一時金の増額はこれまで何度かなされてきたが、医療機関側がさらに費用を上げるという“いたちごっこ”が続いてきた過去もある。
子どもを持ちたい人のため、そして、日本の人口減を食い止めるためにも、少子化対策のせめてもの一手が打てるか、岸田政権の決断が求められる。