地震がきたら「ダンゴムシ」より「カエル」「トカゲ」のポーズ? 子どもが自ら考え命を守る“新しい防災教育”の現場

紙芝居を使った“防災訓練”が行われたのは、横浜市の保育園。3~5歳の園児60人が参加しました。講師を務めたのは、NPO法人減災教育普及協会の江夏猛史さんです。
地震の時に危険なものは「ガタガタ、グラグラ」すると幼児でも理解できるように制作した紙芝居「がたぐら」。江夏さんは紙芝居を読みながら、子どもたちの周囲にある窓ガラスやドア、棚やカートなどを、実際にゆらしはじめました。すると、ゆれるものとゆれないものの違いがでてきます。大きな窓ガラスをゆらすと、大きな「ガタガタ」という音を立て、園児たちも、ビックリ! いつもあるものが危険なものに変わり、少し怖がる園児も。そういう「ガタガタ、グラグラ」するものが「危険」であることを子どもたちに伝えていました。
紙芝居が終わると、子どもたちは「今いる場所で地震がきたら、どこに逃げる?」と問いかけられます。戸がゆらされてガタガタと音を立てると、園児も、先生も、ガタガタしない場所を考えながら逃げます。そこには、机などわかりやすく避難する場所は見当たりません。
自然と行き先はバラバラに。教室の中で、机の下に一斉にかくれるというこれまでの避難訓練とは全く違った景色でした。
地震の時には、周囲のものだけでなく、人もグラグラします。そんな地震のゆれを体験できるマット「YURETA」。マットの四方を大人が引っ張り合うことで震度5強から7まで再現できるもの。訓練では、ゆれている時に「どんな姿勢」だと危険なものから逃げやすいかを学びました。
まず、体をまるめて縮こまる「ダンゴムシ」のポーズ。ゆれだすと、子どもたちの体はころがり、隣の友だちとぶつかりあうことも。
次に、しゃがみこんで、両手足を床につける「カエル」のポーズ。より小さい子どもは、腹ばいになる「トカゲ」のポーズ。ゆれ出しても、子どもたちはなんとかふんばることができています。そして、前にはうようにして進むことができました
これまで地震がきたら「ダンゴムシのポーズ」と教わった子どもたちも多いでしょう。しかし講師の江夏さんは、ダンゴムシのポーズだと、下を向いてしまって、危険を見つけにくいと指摘。一方で、カエルやトカゲのポーズは、周りの危険に気づいて逃げることができるといいます。実際に体験した園児たちに話を聞くと……
――本当の地震があったらどんなことが起きるのかな?
「まどがゆれたり、ガタガタしたりする」
――危ないところからどうやって逃げられそう?
「カエルのほうが、まえにすすめる! ダンゴムシはころがるだけだから」
保育園では月2回、避難訓練を実施しています。そんな中、今回、“新たな避難訓練”を実施してみてどんな変化が生まれたのか、防災担当の保育士に聞きました。
――訓練を終えてみてどんな気づきがありましたか?
「今までは早く逃げる、机の下にもぐる、頭を守るということを私たちも教わってきて、その通りにやっていたのですが、江夏さんに来ていただいて考えが変わりました。早さではなくて、身の安全を守るのが大事だと感じました」
――これまではどんな避難訓練だったのですか?
「とりあえず『頭を守る』。防災頭巾をかぶって園庭へ出る。中は危ないと思っていたので、とりあえず外に逃げるんだよって、子どもたちに訓練をしていました」
――保育士になる過程で防災や訓練について学ぶ機会はありましたか?
「(機会が)なかったので、今回初めて学んで衝撃でした。子どもの時に学校で机の下にもぐる、校庭に逃げるといった今まで自分がやってきたことを、そのまま子どもたちに教えていたのです。でも新しい訓練をやってみて、今までの訓練は、ただ逃げていただけ。実際の被害を想像しながら避難することが大事と感じました」
――これからも続く防災の取り組み、どんなことが課題と感じますか?
「やはり、実際に大きな地震を経験したわけではないので、どのくらいの被害が出るか想像するしかない。そこは難しいところですよね。そして家具などの固定。やってはいても、危険だなと気付く場所がみつかるので、その都度対策はしていきたいです」
避難訓練をアップデートしようと全国を駆け回る江夏さん。現在の防災教育の課題を聞きました。
――これまでの避難訓練の何が課題と感じていますか?
「それぞれの地域に災害の被害想定があります。でも全国の避難訓練をみていると、先生たちがやりやすい、そしてはやくできることが訓練の基準に。子どもたちの周りに実際にある危ないもの、実際の被害想定に対する訓練内容になっていない点が大きな課題ですね」
――今日の訓練、3歳の園児たちも危険なことは理解できていましたね。
「子どもでも危ないものはわかります。子どもがわかるようにオノマトペの『ガタガタ、グラグラ』で伝える。そこから危険を教えていきます。はやさではなくて考えるための『ガタガタ、グラグラ』。これはどこでも使えます。道でもショッピングセンターでも、ガタガタ、グラグラはあるので。自ずと危ないものがわかってきます。常に危ないものを見て、正しい行動を考えられることが大事。危ないものを探すのが上手な子どもたちに育ってほしいですね。何が危ないのか、何が起こるのか、小さいころから防災教育の中で培っていかないといけない能力です」
――子どもたちを守る先生たちが防災教育を受けてないことも課題ですね。
「保育園・幼稚園から小中高と教育現場にいる教員が、誰一人として、資格を取る段階で学ばない。習っていない、できないのにやらないといけない。自分たちが小さい時に学んだことだけを教えている。『何が起こるか』ではなく『何をするか』だけが踏襲されている。それが安全文化をつくっているから、変えないといけないですね」
――江夏さんが必要と考える「新しい避難訓練」とは?
「防災教育の筆頭には、避難訓練があります。日本は避難訓練が整っているので、それを新しくすることでバージョンアップされると思います。根拠のある避難訓練を作り、これまでの避難訓練を変えていきたいです。大人も子どもも、自らの力で正しい答えにたどり着ける、『考える避難訓練』にしていきたいです」
■取材を終えて……
地震が起きたとき、いつも机があるとは限りません。親や先生がいつも子どもたちのそばにいてあげられません。そして大人が近くにいられたとしても、その大人も十分な防災教育を受けられていません。大人も子どもも、よりリアルな避難訓練を通して何が「危険」かを理解する。日常生活の中で何が危険か、どこが危険か、親子の会話など日頃から積み重ねていくことが、いざというときにパニックにならずに命を守れるようになるのでは、と感じました。(鈴江奈々)
▼NPO法人減災教育普及協会理事長 江夏猛史(えなつ・たけし)氏
阪神淡路大震災での経験、そして教育現場での避難訓練に危機感を抱き、紙芝居「がたぐら」やマット「YURETA」などを使って、全国各地で“新たな避難訓練”を実施。保育士や教員などへの研修や企業・自治体に防災アドバイスも行う。
<連載企画>『子どもたちが、生きやすく』
少子化が進む一方で、子どもたちを取り巻く環境は複雑さを増し、社会の課題は山積しています。今、子どもたちの周りで何が起きているのでしょうか。日本テレビ系列のニュース番組『news every.』は「ミンナが、生きやすく」が番組コンセプト。この連載では「子どもたちが、生きやすく」、そのヒントを取材します。