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教団の肥大化「メディアの責任大きい」思想家・内田樹氏が語る“オウム”~シリーズ「オウム30年」⑥

2025年3月24日 6:14
教団の肥大化「メディアの責任大きい」思想家・内田樹氏が語る“オウム”~シリーズ「オウム30年」⑥

 地下鉄サリン事件をはじめ、数々の凶悪事件を起こしたオウム真理教。山梨県旧上九一色村の教団施設への強制捜査から3月で30年を迎える中、当時の映像と30年後の証言で事件について考えるシリーズをお届けします。6回目は神戸女学院大・名誉教授で思想家の内田樹さんへのインタビューです。「オウム真理教」を生み、暴走に至らせたものは何だったのか伺いました。

 武道家であり思想家として現代日本に鋭く迫る数々の著作がある内田樹さん。「オウム真理教」が生まれた当時の時代背景に着目します。

 「1995年の震災もサリン事件もいろんなものが弾けた。95年ていうのは本当に節目だったなという感じがしますね」

 「こっち(阪神・淡路大震災)が天災でこっち(地下鉄サリン事件)が人災だったわけだけれども、2種類の非常にスケールの大きな災害がほぼ同時に起きた年。本当に末世感というのが強くなって『はい、ピリオド!』って打たれた気がしました」

 「本当にそれまで戦後の復興、高度成長期、年率10%の経済成長なんて時代があって、そのあと少し安定期があって、その先にバブルがあったわけです」

 「オウムをあんな風に大きくしたのはメディアの責任が非常に大きい。本当に面白がってましたから。面白がって、麻原彰晃という人を英雄視して、彼を真面目に相手する文化・メディア知識人という人がたくさんいたわけで」

 「テレビだったら視聴率稼げるんだったら何やっても構わない。本だったら売れれば何だって構わない、っていう。とにかく何をやってもちょっと変わったことをすれば、すぐにパッとお金になる」

 「『中身が空疎なことは分かっている、俺は頭がいい』『空疎なもので商売してビジネスを成功させて金を儲けている俺も、また賢い』。そういう虚無的な思い上がりというのが、オウムという教団をあれだけ大きくした」

 「最終的に確か麻原彰晃という人が捕まった時も、屋根裏かなんかのすごく狭いスペースに札束抱えて隠れていたというのを聞いたときに、なんというかどんどんどんどん“縮減していく思考”というか…」

 「外界とのコミュニケーションの中で、自分の立ち位置というのを自己点検していく、そういう作業を全くしない集団だった。そこが、僕はすごく不健全だなという気がしていた。結構、高学歴の人もいたわけですけれども、どこかで思考停止してしまった」

 「結局、最後まであの人(麻原彰晃)は結局、法廷でも何も証言しないまま。実際あの人がどういう人物だったか、弟子たちとどういう関係を構築していたか、結局わからないまま、死刑になってしまった。だから、これは本当に大きな謎なんですね」

 「だから、『閉じてはいけない』のです。オウム真理教も必然性があって生まれたものであって、知識人であったりメディアであったり、多くの人が加担してきた。そのことについて、何でそんなことが起きたのか?という検証はやっぱり、しないといけないと思う。しないと、同じことがまた起きるということですよね」

 「だって、オウム事件というのを誰も教訓化していないし、あれが何だったのか、というのが誰もわからないわけですから。『なんかあったみたいだね…ガス撒いたみたいだね…』って」

 「事件について、きちんとした分析がなされていない。きちんとした分析がなされていて、それが国民的に共有されていないのであれば、同じことは何度でも繰り返す。繰り返すリスクがある。僕は繰り返すと思いますよ。似たような宗教団体が、似たようなことをやる」

 「起きた事件を一つずつ、きちんと吟味していって。まぁ、全員がやることはないわけであって、学者とかジャーナリストの仕事なわけであって。それをきちんとまとまったところでアーカイブして、みんなで共有していく。そういう地道なことを繰り返していく、ということなのではないですかね」

最終更新日:2025年3月24日 6:17
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