【解説】荒川静香「五輪は何が起こるか分からない」羽生結弦はSP8位も「空気感を大事にして滑っている」
北京五輪5日目の8日、フィギュアスケート男子シングルショートプログラムが行われ、日本からは、94年ぶりの五輪3連覇を狙う羽生結弦選手、平昌五輪銀メダルの宇野昌磨選手、五輪初出場の鍵山優真選手が出場しました。
SPを終え、世界選手権3連覇中のネイサン・チェン選手(米国)が世界最高得点をマークしトップ、2位には自己ベストを大幅に更新した鍵山選手、3位は団体戦に続き自己ベストを更新した宇野選手が入りました。羽生選手は、冒頭の4回転が1回転になり8位でした。
日テレ系五輪メインキャスターの荒川静香さん(トリノ五輪金メダリスト)が、各選手の演技について解説しました。
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■羽生結弦選手について■
(会場は)見守る、集中、引き込まれたという感じ。最初の4回転は、アクシデント的に足をとられてしまって、溝によってだと思う。力が全部逃げてしまったというような形になってしまった。ただ、そのあと一番驚いたのは羽生選手は、集中力をすぐに切り替えて立て直して、いい演技をしていくというところ、そこがほんとにすごいところだなと思う。
4回転のコンビネーションも、軸もまっすぐで、本当に一糸の乱れもなかった。大きな加点がついたジャンプだったと思う。それ以外のスピンであったり、ステップ、滑りといった面では、非常に丁寧ながらものびやかさというものをしっかりと出すことができていた。そこは王者の貫禄だったと思う。
難しい動きをした直後にジャンプに入って、これもしっかりと音楽をとらえられている。やはり気持ちが焦ってしまうと音楽よりも先に動いてしまったりすることもあるんですけど、しっかりと音楽に乗って、ジャンプ以外のところでもコンディションの良さを感じる滑りだった。空気感を大事にして滑っているのが伝わってきた。
■宇野昌磨選手について■
出だしの滑りから、「今日はいいのではないか?」というような、スケートにのびやかさがあった。そこからジャンプに入っていくときも非常に落ち着いて、いいタイミング、いい角度、いい力の使い方で素晴らしいジャンプ、空中の姿勢も美しかった。滑らかなスケーティングが引き立つような、プログラムとして音楽にぴったりと重なるような演技だった。
全日本の直前に足を痛めてしまっていたので、回復というのが心配されましたが、非常にいいコンディションでここまでこられたのかなというような、そんな滑りだった。
今シーズンは4回転+3回転のコンビネーションが4回転+2回転になってしまうという試合も何度かあった。そこが非常に緊張感があったが、団体戦でその感覚というのは取り戻したかなと。やはり団体戦のあの場で演技をパーフェクトにできたことは、このショートプログラム、個人戦にはすごくいきたんじゃないかなと感じる。
(会場の)上から見ていたが、非常にリンクの使い方も大きかった。というのは、非常にスピードにも乗れているからこそ、リンクの端から端まで使うことができていたと思う。ジャンプやスピンだけではなく、そういった動きにもメリハリがつけられていて、見応えのある滑りだったと思う。こういったステップシークエンスも、大きなエッジワークでバランスを崩しやすくなる、その限界まで攻めて滑っていたので、決して守っていない、そういった躍動感というのが得点にも反映されたのかなと思う。
■鍵山優真選手について■
鍵山選手のプログラムは、笑顔になるような、軽やかさやノリの良さも魅力だと語ってくれていたので、それが今日は全てうまくいった滑りだった。最初の4回転のサルコウのジャンプも、跳んだあとのスピードが、跳ぶ前よりも増したのではないかなというような滑らかなジャンプだった。
限られた観客だったが、いる人全てを引き込むような滑りだった。ベテランのメダルを狙う選手がいる中で、軽やかさが非常に際立っていたと思う。初々しさ、今だからこそ出せる魅力だと思う。そういった部分で非常に今日の演技は勢いがあった。
これまで、鍵山優真選手はフリーで追い上げるタイプだったが、ショートでこれだけ伸びやかに、うまくいくということが五輪の舞台でできたというのは、団体戦で一度滑って五輪に自信をつけたんじゃないかなというのもある。それは宇野選手が、五輪の舞台でどのように力を出せるのか、直前で見せてくれたのも大きかったと思うし、ここで滑ることのできる喜びの方が緊張感よりも勝っていたかなという印象を受けた。持てる力を全てこの瞬間に出せるのはすごいこと。
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荒川さんは、男子ショートプログラムを振り返り、「五輪は何が起こるか分からない」とコメントしながらも、日本の3選手については「コンディションは非常にいい」と、10日に行われるフリーでの活躍に期待を寄せました。
男子シングルフリーの滑走順は、羽生選手は第3グループの5番目、最終グループの4番目に宇野選手、同5番目に鍵山選手となっています。