×

“強制送還”で減少? 欧州目指す難民の今

2016年5月6日 14:11
“強制送還”で減少? 欧州目指す難民の今

 先月上旬、トルコ西岸の街・ディキリ。街外れの入り組んだ海岸沿いに、密航船の出発地があった。この一帯はヨーロッパを目指す難民の密航の拠点となっていて、難民が置いていったとみられる救命具や洋服などが散乱していた。

 この場所からわずか20キロほど先にあるのが、ギリシャのレスボス島。内戦が続くシリアなどを逃れ、平和な暮らしを求めてヨーロッパに押し寄せる人の数は去年、100万人を超えた。


■「“合意”で難民が減った」
 しかし、危険な航海で命を落とす人は絶えない。繰り返される悲劇を防ぐため、今年3月、EU(=ヨーロッパ連合)とトルコの間で、ある合意がなされた。

 その合意とはギリシャに密航した移民をトルコに送り返すことだ。その代わり、EUは送還した移民と同じ数だけ、すでにトルコ国内にいるシリア難民を受け入れることになっている。ディキリの住民は「この政策により、ヨーロッパを目指す難民の数が減った」と口をそろえる。

 その変化はディキリに近い都市・イズミルでも見られた。難民用の救命具を取り扱っている洋服店の店員は「去年は一日に50~75着が売れていたが 最近は1か月に1着売れるかどうかだよ」と話す。

 強制送還の政策が始まって以降、難民の数は目に見えて少なくなったという。


■密航業者「最近は値下げしたよ」
 こうした中、イズミルを拠点にしているという密航業者の男を取材することが出来た。この男も「最近、ヨーロッパを目指す難民の数が少なくなった」と語る。

 さらに、「以前は一日に15人の客が来たが、今は1週間に1人ぐらい。夏は1人あたり1200ドル、冬に650ドル取っていたのが、最近は450ドルに値下げしたよ」と話した。


■渡航を画策する一家の思い
 しかし、危険な渡航を画策するシリア人たちは完全にいなくなったわけではない。イズミルの民家で生活するケニア・フセインさん(54)一家。家族8人で過激派組織「イスラム国」が支配する地域から逃れて来た。

 フセインさん「近くヨーロッパに渡ります。今は密航業者からの連絡を待っています」

 フセインさんたちは、密航業者から「36人の渡航希望者が集まり次第、出発する」と言われ、業者が用意した民家で隠れるように生活していた。

 フセインさん「いつもテレビで難民のニュースを確認しています。送り返される可能性があるのは知っているが、それでも密航したいと思っています。ギリシャに着いても、マケドニアとの国境で止められるかもしれない。それでも、シリアにいるより安全なんです。それほどシリアでの生活は過酷なんです」

 二女・マリアさん(13)「ヨーロッパに行って勉強を続けたい。でもボートに乗るのは怖い」


■別ルート“難民”が増加
 一方で新たな問題も起きている。トルコからギリシャを経由するルートで移動が大幅に制限されたため、北アフリカからヨーロッパを目指す難民らが増加しているのだ。先月にも難民らを乗せてアフリカからイタリアを目指していた船が沈没し、約500人が死亡した恐れがあると伝えられた。

 危険な航海でヨーロッパを目指す難民たち。その根絶に向けては、まだまだ道半ばと言えそうだ。