【解説】トランプ氏、共和党大会に“サプライズ登場” 銃撃後初の公の場
鈴江奈々キャスター
「3つのポイントで見ていきます。『“サプライズ登場”で期待感』『銃撃の危険性 事件前に把握?』『39歳副大統領候補へ 異例の人選』。まず『“サプライズ登場”で期待感』ということですが、16日、トランプ氏は党大会で銃撃事件後、初めて姿を現しましたが、あれはもともと予定されていたことだったんでしょうか?」
近野宏明・日本テレビ解説委員
「これは違うんですね。16日の党大会、事前には何の告知もされてはいませんでしたので、いわばサプライズでの登場となりました」
鈴江キャスター
「そうなんですね」
近野解説委員
「ケガをした右耳にガーゼをあてて歓声に応えていました。その姿に涙を流す支持者も会場では見られ、トランプ氏が登場しただけでもかなり劇的な効果がありました。こうなると何か一言、発言があるかなと思いまして、私もメモの用意をして見ていたんですが、16日は発言はなかったということで、いわばそこに関しては『寸止め』をしたという格好です」
陣内貴美子キャスター
「トランプ氏は支持者の前で何かしら発言をするだろうということを期待しているのをわかったうえで発言しなかったということも考えられますか?」
近野解説委員
「その可能性はあると思います。党大会の一般的なスケジュールを見てみますと、普通は3日目に副大統領候補の指名投票とその受諾演説。最終の4日目に大統領候補の指名投票をやって受諾演説という流れですが、今回に関しては初日に本来4日目にやる大統領の指名投票をやるという異例のスケジュールです」
「実はNNNのワシントン支局は、情報については先週の時点でつかんでいましたので、必ずしもこのスケジュール変更は暗殺未遂事件を受けて急きょ初日に変更したわけではないです。しかし、結果として事件に屈せず、事件からそう間を置かずに初日に正式な候補にトランプ氏を押し上げ、ちらりとトランプ氏の姿を見せるだけでも大会そのものを大きく盛りあげる結果になりました」
「あとはその発言です。支持者や国民にむけて事件についてどういうふうに語るのか、それから政権をもし奪還したら自分たちはどんなことを推し進めたいかというメッセージ、これを発するか注目されますよね。16日にあえて発言しなかったことによって4日目、フィナーレを飾る最終日の演説への期待感を増す効果というものがあるという予想です」
鈴江キャスター
「なるほど、指名投票(を1日目に行うこと)は事件前から決まっていた。ただ、党大会に登場するというのはサプライズで行われたということですね」
鈴江キャスター
「そのトランプ氏を狙った銃撃事件ですが、2つ目のポイント『銃撃の危険性 事件前に把握?』をみていきます。銃撃の危険性は事件前に把握していたという情報があるということです」
近野解説委員
「大統領候補になろうという人が演説中に撃たれるという非常にショッキングな事件。16日に新たな映像が入ってきています。銃撃前の容疑者の様子です。姿勢を低くしながら建物の屋根をのぼっていく姿が確認できますが、それを誰かが制止するような動きはみられません」
「動画に映っていたのは20歳のトーマス・クルックス容疑者。のぼっていたのは白い屋根の建物で、アメリカメディアによると、約120メートル離れたトランプ氏を狙撃したと。後知恵といわれればそれまでですが、今、事件の現場をみてみると正直、危なっかしいなと思いませんか?」
鈴江キャスター
「遮る物がないですものね」
森圭介キャスター
「近くにたくさん建物があるのであれば見逃してしまうかもしれませんが、容疑者とトランプ氏との間に何もない。建物もほかに近くにないとなると、そこをどうにか見ることはできなかったのかなと今になって思います」
近野解説委員
「シークレットサービスも新たな事実としては、数日前からその危険性を認識していたと、アメリカメディアが一部、報じはじめています。にもかかわらず事件は起きてしまったということで、アメリカ国内の治安対策を担うマヨルカス国土安全保障長官は今回の事件について、『警備は失敗だった』とメディアに対して率直に語っています」
鈴江キャスター
「今後、この失敗がどう改善されて、いかされていくかというところも注目されますね」
近野解説委員
「そうですね、二度とあってはならない事件ですから」
鈴江キャスター
「続いて3つ目のポイント『39歳副大統領候補へ…異例の人選』です。16日、副大統領候補が発表されて、その人がバンス上院議員ということです」
近野解説委員
「どういう人かといいますと、中西部オハイオ州の出身です。オハイオ州がどういう地域かというと、鉄鋼業などが衰退していた、製造業も寂れてしまった『ラストベルト』と呼ばれる地域で、バンス氏はその地域の白人労働者の悲哀・苦しみというのを描いた作品を書いて、それがベストセラーになりました。トランプ氏の支援を受けて政治家に転身した上院議員、いわば『トランプチルドレン』の1人です。上院議員になってまだ1年半ちょっとです」
近野解説委員
「副大統領候補というのは、アメリカでは『ランニングメート』というふうにいわれます。長い選挙戦があって、当選した後もずっと政権が続く限り一緒に走っていく『伴走者』という意味です。もし、鈴江さんが大統領候補になるとしたら自分の伴走者ってどんな人を選びますか?」
鈴江キャスター
「やっぱり一緒に走るとなると自分にない力とか経験とか能力をもっている人が心強いと思います」
近野解説委員
「斎藤キャスターはどうですか?」
斎藤佑樹キャスター
「反対意見をちゃんといってくれる人とかが大事かなと思いますね」
近野解説委員
「1+1を足して…」
鈴江キャスター
「2以上、10も狙えたらいいですよね」
近野解説委員
「そういうことですよね。ただ、今回はトランプ氏の自信がうかがえる異例の人選といえます。副大統領候補を選ぶ際には大きく2つのパターンがありまして、そのうちの1つ目、『自分にない経験や能力を副大統領に補ってもらうパターン』。例えばオバマ政権のとき、オバマ氏は弁護士の出身で、就任したときはまだ47歳で、政治経験も連邦議会の上院で約4年やっただけ。若さと『Change』というキャッチフレーズが非常に心をつかみましたけれども、政治経験としてはそれほど多くなかったし、外交に関してはもちろん携わることはなかったわけです。そこで上院議員を36年も務めて、外交の分野にも深く関わってきたベテランである、20歳近く年上のバイデン氏を副大統領に選んだと。これによって政権の安定感がぐっと増していったわけです」
「そして、2つ目のパターンは『副大統領のまわりの支持層を取り込んで支持の拡大を図るパターン』です。例えば、トランプ氏が大統領だったとき、副大統領はペンス氏でした。この人は自身がキリスト教の保守派の非常に敬虔(けいけん)な信者でそちらの支持が厚い。それから、出身地がトランプ氏がニューヨーク。アメリカではかなり特殊な大都会のしかも裕福な環境で育った人。ところがペンス氏は中西部や南部の比較的所得が少ない層に訴求する、自身もインディアナ州の出身で子だくさんの家に生まれたということもあって、人柄としても浸透力があるので、それを取り込んだ」
近野解説委員
「しかし、今回のバンス氏はどうなのか。政治経験は1年あまりと乏しくて、支持層もトランプ氏とほぼ重なっているということです。もちろん政治的な主張も『トランプチルドレン』ですから、アメリカ第一主義をさらに煮詰めたような考え方で、バイデン大統領は彼を『トランプ氏のクローンだ』と早速表現したほどです。それぐらい自分と重なる部分が大きい人選が意味するのは何かというと『トランプ氏の実績・自信』。今までの通りでいいんだ、補うものは何もないんだというあらわれだと」
森圭介キャスター
「なるほど」
近野解説委員
「この先4年間、バンス氏とのコンビで従来の主張を、『やりたいことをやり通すんだ!』という意思が示された形です」
「トランプ氏をバンス氏が補う点が1つあるとすれば、それはバンス氏の年齢です。39歳。トランプ氏より40歳近く若い。トランプ氏の次男エリック氏と同い年ですので、まさしく『親子ほどの年齢差』です」
斎藤キャスター
「ということは、トランプ氏にとって、バンス氏の若さが武器になるということですか?」
近野解説委員
「そういうことですね。これはさっき説明したオバマ政権と逆です。年上の大統領と若い副大統領。『老人対決』とずっといわれてきた今回の大統領選ですが、今回若い副大統領候補を選んだということでフレッシュ、清新なイメージを打ち出せたと思います」
鈴江キャスター
「一方で民主党大会が8月に控えていますが、バイデン大統領に候補者からの撤退を促す声も出る中ですが、どうなりそうでしょうか?」
近野解説委員
「民主党内にはハリス副大統領を推す声ももちろんあります。ただ、そもそもバイデン氏が選挙戦から撤退するのかどうかというのがまず1番目のハードル。そのうえで、仮に撤退するとしたら、今度はハリス氏で本当にいいのか。別にもっといい人がいるんじゃないのか。ただ、誰が候補者になるにせよ、しっかりと党内を固めて本戦に臨む必要がありますが、民主党の党大会まであと残り1か月なんです。そうすると、民主党としてはトランプ陣営との戦いだけではなくて、時間との戦いという、本当に厳しいハードルも待ち構えている。そんな状況です」
鈴江キャスター
「大統領選の構図が固まるまで民主党内の状況も注目されます」