岸田首相、米の議会演説ポイント…「日米の未来を考える」演説
日本の首相として9年ぶりに岸田首相が臨んだ議会演説。「未来志向の日米関係」を打ち出した演説の3つのポイントについて、詳しく解説する。
■「9年ぶり」の議会演説…キーワードは「未来志向」の日米関係
「未来にむけて~われわれのグローバル・パートナーシップ」と題された、今回の演説。岸田首相は冒頭「日本の国会では、これほどすてきな拍手を受けることはない」とジョークを交え、議場は笑いに包まれました。
日本の首相の議会演説は、2015年の安倍首相以来、9年ぶり。「希望の同盟へ」と題した安倍首相(当時)の演説は、第2次世界大戦について「痛切な反省」を表明するなど、過去の歴史認識を踏まえた上で、未来に向け、日米が協力して世界の平和と安全に貢献しようというものでした。
今回の岸田演説のキーワードは「未来志向」と、首相周辺は明かしました。世界情勢が激動する中、日本の首相として「日本の国益を守るため、どうアメリカと共に未来に向けて進んでいくか」(政府関係者)というメッセージを込めたといいます。
演説のポイントは3つです。
■ポイント1 「民主主義」と「権威主義」…どちらを選択?
世界では今、ロシアによるウクライナ侵攻、軍備増強を続ける中国など、覇権主義的な動きが強まっています。「民主主義」が危機に直面し、「権威主義」が台頭する中、演説で首相は「米国が築いてきた国際秩序は、新たな挑戦に直面している」「自由と民主主義は現在、世界中で脅威にさらされている」と危機感を示しました。
その上で「自由、民主主義、法の支配を守るのは日本の国益。人権が抑圧された社会、政治的な自己決定権が否定された社会を子どもたちに残したくない」と訴えました。
さらに、この価値を守ることが「日米両国、世界の未来世代の利益にもなる」と呼びかけました。
■ポイント2 「もしトラ」を意識?…米の「分断」への懸念
演説では「トランプ“大統領”」に備えた、いわゆる「もしトラ」に向けたメッセージがあったのでしょうか。
首相は「日本は米国と共にある」とした上で「国家安全保障戦略を改定し、日米同盟を強固なものにするため、自分自身が先頭に立って取り組んできた」と成果をアピール。その上で「関係がこれほど緊密で、ビジョンとアプローチが一致したことはかつてありません」と同盟関係の進化を全面に打ち出しました。
一方、首相は「こうした努力は、議会では『超党派』の強力な支持をいただけるのではないか」と指摘。民主党、共和党という党派の枠組みに左右されないものだと強調しました。政府関係者は「バイデン大統領、トランプ氏、どちらが大統領に選ばれてもよい表現にしている」と解説しました。
また、演説の中で注目したいのは「一部のアメリカ国民の心の内で、世界における自国のあるべき役割について、自己疑念を持たれていると感じる」という言葉です。
この理由については「ほぼ独力で国際秩序を維持してきた米国。そこで孤独感や疲弊を感じている」と指摘。アメリカで今、自国の国益を最優先する「内向き志向」が強まっていることへの懸念を示したのです。
この発言の狙いについて、外務省関係者は「アメリカ社会の内向き化への懸念、分断への警鐘」を示したものだと解説。別の政府関係者は「トランプ大統領が再選され、さらなる内向き化、分断が深まることへの懸念とも受け取れる」と解説しています。
議会という民主・共和双方の議員が並ぶ中、そしてバイデン氏、トランプ氏の直接対決が控える中、岸田首相として「ギリギリのライン」(首相周辺)の発言だったと言えます。
■ポイント3 次世代の「未来を考える」…日米が「共に」進む
3つ目のポイントは「未来志向」です。
演説のテーマは「日米関係の未来に向けた『グローバル・パートナーシップ』」。日本は「トモダチ」として「米国は独りではなく、日本は共にある」と、課題解決に向けて共に取り組む姿勢を強調しました。
演説では最後、「日米両国は、平和にとって、自由にとって、繁栄にとって、必要不可欠な存在です。信念という絆で結ばれ、日本の強固な同盟と不朽の友好をここに誓う」と宣言しました。未来志向で「今後、新たな日米関係のステージに向かう」(政府関係者)というメッセージを込めたという。
首相が打ち出した「未来に向けた日米関係」は進んでいくのか。自身の手で歩みを進めるためには、まずは厳しい状況に追い込まれている政権運営を軌道に乗せられるかが問われている。