19日、自らの口から“競技引退”と“プロ転向”について語ったフィギュアスケートの羽生結弦選手。「彼の中で次のステージが見えた」…同じ仙台出身で羽生選手を子どもの頃から知るトリノ五輪金メダリストの荒川静香さんが感じたこととは。

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男子シングルとして66年ぶりの連覇、男子選手として唯一となるジュニアとシニアの主要大会を制する「スーパースラム」達成、世界初の4回転ループ成功と五輪での4回転アクセルの挑戦…記録にも残るスケーター、羽生結弦選手。

19日夕方、会見を開き、今後競技会に出場しないこととプロ転向を発表しました。同じ仙台出身で羽生選手を子どもの頃から知っているトリノ五輪金メダリスト・荒川静香さんに伺いました。

■語られた羽生選手らしい言葉

藤井貴彦アナ
「会見をどう見ましたか」

荒川静香さん
「羽生選手が何をどのように語るのか、その決意というのが何なのか、ということを想像しながらこの1日過ごしてきました。会見を見て、羽生選手らしい言葉がたくさんありました。“引退”というのは漢字にすると“引く”“退く”と書きますが、 羽生選手の会見で語られていた言葉からは、『前進』というイメージの方が強いです。前進していく決意を語っていたという印象が強く、また『プロのフィギュアスケーター』ではなく『プロのアスリート』として、という言葉がとても印象的でした。これは羽生選手の決意で、羽生選手らしい言葉だと感じています」

■4回転アクセルの挑戦は続ける

藤井貴彦アナ
「うれしかったのは、4回転半（4回転アクセル）への挑戦を続けると話した点なんですが、荒川さんはどう聞きましたか」

荒川静香さん
「フィギュアスケートは羽生選手の口からもありましたように、プロとアマチュアの境界線というのがあるんですけど、では、プロになったらどうなるのかというのは私自身もこの16～17年葛藤してきました。羽生選手にとっては戦う場が競技会から変わったとしても、フィギュアスケートを極め続けたい、その中で挑戦するものが4回転半などだと思いますが、“枠”がなくなったことによって、非常に多様になっていくっていう、すごく羽生選手に対する期待が感じられる世界にステージを変えるんだなというふうに会見を聞いて思いました」

■競技会ではここまで、と線引き

藤井貴彦アナ
「北京五輪では足のケガがあり、一方で若手の台頭もありました。このあたりは羽生選手の決断に影響を与えたとお考えですか」

荒川静香さん
「少なからずあるのかもしれないですが、羽生選手がなぜソチ五輪で金メダルを取った後も続けたかというと、かなえたい、到達したい目標があったからこそ、この競技の世界にずっと身を置き続けたと思います。そしてソチ五輪後から追われる立場になったわけですが、目標を達成してからもまた新たな目標を見いだしていくことで、競技会に身を置いて自分を鼓舞して頑張ることができたと思うんです。それは羽生選手にとって世界選手権の金メダルであったり、四大陸選手権であったり、グランドスラム達成（シニアの主要大会を全て優勝）するまでは目標があり、また達成してからは4回転半を競技会で挑戦したいという目標が見つかったからこそ進んでこられたと思います」

「平昌五輪の時も、足の状態によって練習がしたくても思うように追い込んでいけない時期がありながら、前に進んで戦い（金メダルに）到達しました。またさらに4年やるかどうかはすぐには決められなかったと思いますが、目の前のことに一つ一つ向き合っていった結果、北京五輪まで進んで、そこで見せた姿というのは、満身創痍で全身全霊をかけて戦う姿だったと思うので、やはり彼が目指すもの、思うようなパフォーマンスというものが、競技会ではここまでという線引きを彼自身が北京が終わった後に、ようやく至ったのかなと思いますね。なので人のこと、（若手の）台頭とかそういったことよりも羽生選手自身がいつも自分のスケート人生を見つめていて向き合っているというのを改めて感じたところではありますね」

■ようやく見えた次のステージ

藤井貴彦アナ
「そう考えてみると、平昌五輪で連覇した後、ケガともよく戦って自分のスケートを追い求めたなという感じがありますね」

荒川静香さん
「そうですね、もう本当に苦しかったと思います。身体能力も技術力も高い選手ですけど、やはりケガというものはやりたい練習の量であったり質であったりというものにセーブをかけてしまうものでもあると思うので、そういったものとも付き合い、競技会で戦いながらきたなかで、何度もそのプロのステージに身を置いて続ける選択も考えた、ということでした。ようやく、どのような次の道があるのか、ステージがあるのかというのがパッと彼自身の中で見えたのかなというふうにも感じました」

■これまでとは違った表情も…

藤井貴彦アナ
「競技会の前後に皆さんの前に出ることが多かったと羽生選手本人は言っていました。そうすると競技会に集中している表情しかなかなか見せることができなかったと思うので、今後、例えばアイスショーなどで、その前後に柔らかい羽生選手本来の表情を見せる時間が長くなるんじゃないかなと思いますが、この点はどうですか」

荒川静香さん
「私もそう思います。いろいろな角度から羽生選手を見られるチャンスが増えると思います。また、アイスショーの場に身を置いたからといって、簡単な世界ではないんです。どんな姿を後輩に見せていくのか、世間に見せていくのか、人前に立つということはそれなりに責任もあり、ましてや金メダリストとして期待して楽しみにしてくださる方々にどのように見せていくのかというのは、非常に緊張感も高いでしょうから、羽生選手の向上心を支える部分でもあると思います」

「プロのアスリートとして進み出す羽生選手は甘んじることなく、やはり向上し続ける新しいプロの姿というのは、期待にあふれるものであると私は思っていますね」

■荒川さんが感じた“新たな一歩”

藤井貴彦アナ
「その点でいいますと、荒川さんはその世界で、金メダリストだと思ってお客さんが見に来てくださるわけですよね。自分の体力であるとか技術力を維持する戦いをずっと続けていく、この大変さもあるんじゃないですか」

荒川静香さん
「自分自身でどんな姿をみせたいのか、いまどういう状態なのかを全て自分でコントロールしていかなければいけないなかで、技術力が衰えてしまっても気づかない世界でもあるんです。ですのでその中でしっかりと自分自身を見つめていないと、立ち続けられる世界でもないので、非常に華やかではあるんですけど、厳しい世界でもあるなと私自身は感じています。でもそのなかで戦おうとする羽生選手のこの決意ですから、楽をしようとこの世界に入るのではなく、ここからまた戦う姿をお見せしたいという決意なんじゃないかなと、会見で羽生選手の新しい一歩踏み出す瞬間というのを私は感じましたね」

藤井貴彦アナ
「タイミングあれば、羽生選手にお疲れさまと声をかけるんですか」

荒川静香さん
「もう本当にそれはもう。ここまでもよく頑張ったと思いますけれども、ここからは本当に体を大事にして、自分の見せたい姿というのをどんどん世間に発信していってほしいなと思います」