【独占密着】大学駅伝三冠の駒澤大がアメリカ合宿を敢行 田澤・鈴木・篠原・大八木監督それぞれの新たな挑戦
絶対的エース・田澤廉 パリ五輪への挑戦
4年生で迎えた最後の箱根駅伝では、12月上旬に新型コロナに感染し満足な練習ができない中でも、2区を区間3位とエースの意地を見せた田澤選手。大学駅伝を終え、次はトラックで今年の世界選手権、来年のパリ五輪出場を目指しています。
今回は大学1年時以来、2度目となるアルバカーキ合宿で、強度の高い練習をしっかりとこなしました。12000m+400m×2本という練習メニューでは後半にかけて徐々にスピードを上げ、最後の400mはおよそ54秒で走り、大八木監督も「まあまあ予定通り」と満足の表情を見せていました。
去年7月に出場した世界選手権で10000m20位と世界との差を痛感した田澤選手には、パリ五輪10000mで入賞するという目標があります。その目標を達成するため、実業団に進む卒業後も練習では大八木監督の指導を受ける予定です。引っ越し先も「環境はいいです。駅から少し離れていても監督の家の近所なので、自分にとってはそれが一番いいこと」と田澤選手。今後も信頼する師と二人三脚で同じ目標を追いかけます。
新主将・鈴木芽吹の決意
今年の箱根駅伝では4区区間3位、中継所直前のデッドヒートを制しトップでタスキを渡した鈴木選手。新シーズンとなり、駒澤大の新主将に就任しました。「早く日本に帰ってチームをまとめなきゃいけないという気持ちと、まだまだ帰りたくないという気持ちと半々です」と、キャプテンとしての自覚ものぞかせます。
取材したこの日は足に少し違和感がありジムでの自転車トレーニングを行いました。驚いたのは床に水たまりができるほどの汗の量。「走ること以外を撮られるのは恥ずかしい」とつぶやきながら練習を終えた鈴木選手に聞いてみると「田澤さんの(陸上)練習メニューを自転車でやってみました。走るメニューができなくても心肺機能を同じように追い込むことはできるので自分で考えました」と、今できる事で最善を尽くす鈴木選手の強さを感じました。「2年連続での大学駅伝3冠を達成したいと思っています」大きな目標を掲げた鈴木選手。田澤選手という大エースの背中を追う新主将は、史上初の偉業を目指します。
2年生エース・篠原倖太朗 今年は「表」で活躍を
「今年の目標は表(おもて)です」笑顔でそう語ったのは2年生の篠原選手。この言葉を掲げたのには悔しい思いがあったからだそう。
「箱根駅伝を終えて、メディアであまり自分が取り上げてもらえず悔しかったんです。田澤さんと芽吹さんの間(箱根駅伝3区)を走ったので目立てなかったというのもあったんですけど(笑)。あれ3区走ったよな?と思いながらテレビを見て…。でも個人の結果も区間2位(全日本大学駅伝5区区間2位、箱根駅伝3区区間2位)ばかりで区間賞を取れなかった。だから今年はきちんと1位という結果を残して表に出ます!」そう語った篠原選手ですが、2月にはハーフマラソンで日本選手学生最高記録を出すなど好調です。今回のアメリカ合宿が初めての海外渡航。それでも「英語もばっちりです。隣の部屋の人に公園の場所を教えてもらいました。3人の中では英語で一番コミュニケーションとっています」と物おじする様子はありません。
ただ鈴木選手によると、「篠原は単語しかしゃべっていないです」とのこと。どうやら頼れる(?)弟分として、先輩にかわいがられているようです。
帰国前最後の練習は強風警報が出る強い風が吹く中でしたが、大八木監督が練習の最後に追加したメニューもきちんとこなしました。直近の目標となる3月12日の日本学生ハーフマラソンについても、篠原選手は「勝負にこだわって優勝します」と語り、新シーズンへの決意を見せました。
過熱する“ポスト田澤”争い
この合宿では、選手3人で宿舎1棟を使用していました。日本にいる時から篠原選手は2年先輩の田澤選手のことをよく観察しているようで、田澤選手は「よく見てますよ(笑)。篠原の方が自分の情報を知っている時もあります」と言います。
「最初は強い選手はどうやっているのか知りたいからよく見ていたんですが、ルーティンや癖など真似するようになりました。もちろん真似したからって田澤さんになれるとは思っていないんですが、取り入れられることは取り入れてます。田澤さんが使っていた寮のお風呂の棚は自分が使いたいと思ってます」と話すと「その棚は自分も使いたいからダメ」と鈴木選手。大エースの後継者を巡る戦いは、どうやら日本に帰ってからも続くようです。
大八木弘明監督の新しい夢
3月で監督を退任し、4月から「総監督」に就任する大八木監督は「世界を目指すトップレベルの選手を育成していく」という新たな構想を持っています。「私も年齢を重ねて50人の選手に同じだけの情熱を傾ける体力が無くなってきたなと感じていました。世界で戦う高いレベルの選手を育ててみたいなとここ数年ずっと考えてきて、今回監督を退こうと決めたんです。もちろんさみしさもありますが、新しいことをやってみたいというわくわくした気持ちもあります」と語ります。4月からは田澤選手を中心に練習を組み、学生の中でも世界を目指す選手たちを中心に少人数で練習に取り組みます。
フリー時間には宿舎のテレビで世界の長距離動画を見ながら陸上の話をする大八木監督。トップ選手の練習動画を見てまだまだ何かを学ぼうとしている姿からは、64歳という年齢でもなお陸上への情熱が大きくなっているように感じます。
今回の合宿には大八木監督の妻・京子さんも帯同し、選手やスタッフの食事作りを担当。アメリカという場所でもできる限りいつものような食事を提供したいと工夫して献立を決めていました。京子さんも28年続けてきた寮母をこの3月で辞めることが決まっています。大八木監督は「ここまで一緒に頑張ってくれた。女房がいなきゃ本当に自分は何もできない。少しでもここからはゆっくりさせてあげたい」と言っていました。
この合宿でも朝昼晩と、3回の食事作りにフル回転。選手たちは安心して京子さんの作る日本食で練習に励みました。合宿最終日の晩御飯は全員で地元のステーキハウスへ。大きなステーキをみんなで頬張りながらおよそ3週間の合宿が終了しました。「だいたい思っていたことはできた。これをどう生かしていくかが大切」と大八木監督は語ります。それぞれの新しい挑戦への第一歩となった今回のアメリカ合宿。大八木監督、そして3選手たちの今後の活躍が楽しみです。